インド映画夜話

ラーンジャナー (Raanjhanaa) 2013年 140分
主演 ダヌシュ & ソーナム・カプール
監督 アーナンド・L・ラーイ
"僕は彼女を愛し続けた。彼女しか愛せなかった。…だからこそ、取り返しのつかない人生になってしまったんだ…"






 深夜のデリーの病院に担ぎ込まれた瀕死のクンダン・シャンカルは、ただただ愛するゾーヤー・ハイデルだけを思っていた。もう、これはこうなる運命だったのだ…最悪な…どうする事も出来ない…しかし、だからこそ最高の人生だったのだと…。

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 クンダンは、ウッタル・プラデーシュ州ヴァーラーナスィーのタミル系ヒンドゥー教司祭の家育ち。幼い頃、近所のムスリム家庭の娘ゾーヤーに一目惚れしてから、ずっと彼女に告白するタイミングを計って来た…その度に、彼女はクンダンをひっぱたく事が習慣になるほどに。親友のムラーリーとビンディヤーはそんな彼をからかいながらも応援したり邪魔したり。しかし、ついには娘が異教徒と恋仲になったらしいと聞いたハイデル家はこれを許さず、彼女を遠いアリーガルの学校に送ってしまう!

 8年後、修理工や家事手伝いでハイデル家と仲良くなっていたクンダンは、ゾーヤーが帰って来る事を知らされ駅まで迎えにいくが、ゾーヤーは彼の事を憶えておらず、よくやく思い出しても「あれは昔の事」と切って捨ててしまう。それでも彼女に尽くして親友にまでよりを戻すクンダンだったが、今度は「実は、デリーの大学に恋人がいる。彼を呼んで結婚しようと思ってるから手伝ってほしい」と相談されることに!
 絶望にくれるクンダンは不承不承彼女のために結婚式準備に忙しいハイデル家を手伝いに行くが、新聞記事からゾーヤーの恋人が世間を騒がす学生闘士であること…そして彼は、実はムスリムではなくシーク教徒である事を知らされ、これでゾーヤーの結婚式は破談になるだろうと家族全員の前にこの事実を叩き付ける…!!


挿入歌 Raanjhaanaa(僕はラーンジャナー[君への愛に狂っている])



 タミル語(*1)映画界で活躍するダヌシュのヒンディー語(*2)映画デビューとなる、大ヒット ボリウッド悲恋劇。
 タイトルは、「ロミオとジュリエット」にも比するインドでは有名な悲恋物語「ヒールとランジャー」の"ランジャー"から。「ランジャー的な人」「ランジャーのような恋」くらいの意味? 台詞・作詞など一部スタッフ変更でのタミル語吹替版「Ambikapathy」も公開。
 日本では、2014年IFFJ(インディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパン)にて上映。2019年のSpacebox主催のICW(インディアン・フィルム・ウィーク)ヒンディー映画セレクション、2021年のIMW(インディアン・ムービー・ウィーク)パート3でも上映。2022年にはIMO(インディアン・ムービー・オンライン)からDVD発売され、JAIHOで配信もされている。

 インド本国では大ヒット。日本人でも主演2人のキャリアベスト映画と賞賛する人多数で、涙ながらに見ていた人がいるのを重々承知で言いますが……私は、この映画はわかんなかった…。「インド映画は長い」と言われるのはこう言う映画ならわかるわ…とか、見てる間中「早く終われ。でなければ早く話を進展させろ」とそれだけを念じていて…ねぇ。終わった後「偏見承知で言うと、まるで韓国映画みたいだった。こう言うの見たくないから、韓国映画とか日本映画見なくなったんだけどなぁ」と方々で語ってしまったぜぃ。

 話は、インドの地方都市にして聖地を舞台に、インド映画の常道の叶わぬ恋に身を焦がすヒーローが、ヒロインに翻弄されながら自分の愛を押し通す古典的な前半。その押し通そうとする愛が徐々に変質し始め、ヒーローヒロインの運命を突如狂わし後戻り不可能な人生の苦境に放り込む衝撃の中盤を経て、大都市デリーの学生運動を背景に持って来ての変質しつつもなお愛を押し通さずにはいられない恋人たちの悲劇の運命を描き出す後半へと続く。
 その物語的ボリュームは、前半のまったり感からは想像もつかない満腹感と衝撃感を与えてくれるわけですが如何せん…
・各エピソードのつながりが弱い。
・主役2人以外の傍役たちの扱いがぞんざいで、主観的世界から一歩も外に出てくれない(この辺は意図的ではあろうけど)。
・インド的価値観に彩られた物語ながら、バイオレンスなど流血シーンや格闘シーンと言った刺激の強いシークエンスが軒並み排除されてしまって、映画全体のテンションが常に一緒になってしまってる。
 …と言う所で構成に難あり。主役2人の距離感が、1エピソードの中では近くなったり遠くなったりと変化するものの、エピソードの終わりには必ずエピソードの最初と同じ距離に戻ってしまう。映画の最初から最後まで、その振り幅は肥大化するものの進展せずに結局距離感は一定に保たれて、堂々巡りするだけと言うのも「映画が長い」と感じてしまう要素か。
 とにかく、「ヒールとランジャー」と言う背景となる悲恋物語を意識しすぎなのか、ある程度のオマージュが内在するためか、どーも映画単体としてのテンポが悪く見ていてあくびが出て来るんだよねぇ…。

 主役クンダン演じるダヌシュ(*3)は、1983年タミル・ナードゥ州チェンナイ生まれの役者兼プロデューサー兼歌手兼作詞家兼脚本家。父親は映画監督兼プロデューサー兼音楽監督のカストゥリ・ラージャ。弟も映画監督のセルヴァラガーヴァンになる。
 2002年に、父カストゥリ・ラージャ監督作「Thulluvadho Ilamai(若さあふれて)」で映画&主演デビュー。続く03年に弟セルヴァラガーヴァン監督デビュー作「残骸(Kadhal Kondein)」で主演しフィルムフェアのタミル語映画主演男優賞にノミネートされ人気を勝ち取っていく。
 04年にラジニカーントの娘アイシュワリヤー(・ラジニカーント)と結婚。同年の主演作「Pudhukottaiyilirundhu Saravanan(プドゥコーッタイのサラヴァナン)」で歌手デビューし、08年「Yaaradi Nee Mohini(美しき人、あなたは誰)」でヴィジャイ・アワードのエンターテイナー賞を受賞。11年「Aadukalam(アリーナ)」と、12年に妻アイシュワリヤー監督デビュー作「3」で数々の主演男優賞を獲得し、「Mayakkam Enna(この幻はなに?)」で作詞デビューもしている。歌全部の作詞・唄とを担当した「3」以降はプロデューサーとしても活躍。本作公開の13年には、他にタミル語映画「Maryan(不滅)」(歌2曲の作詞も担当)「Naiyaandi(皮肉)」に主演、「Ethir Neechal(逆流を泳げ)」の製作兼作詞兼歌、「Irandam Ulagam(第2世界)」でも1曲歌を担当している。
 ベジタリアン活動家としても知られていて、2011年にPETA (動物の倫理的扱いを求める人々の会)のアンバサダーを務めたり、12年にはWWFインディアのアース・アワー2012にスタッフとして参加していたりしている。

 ヒロイン ゾーヤーを演じたのは1985年マハラーシュトラ州ムンバイ生まれのソーナム・カプール。父は男優アニル・カプール。母は元モデルのスニータ・カプールと言うボリウッドを代表するカプール家出身(*4)。
 子役でTV映画「Pyara Bharat Yeh Kahe」に出演後、シンガポールの東南アジア・ユナイテッド・ワールド大学で映画を専攻。サンジャイ・リーラ・バンサーリー監督の2005年公開作「Black(ブラック)」の助監督として映画界入り。続くサンジャイ監督作でデビューするため、幼い頃からの糖尿病による肥満をおさえて(*5)「Saawariya(我が愛)」で映画&主演デビューして、スターダスト"明日のスーパースター"賞を受賞する。また、ロレアル・パリを始めとしたブランド・モデルや慈善運動家としても活躍中。
 日本公開・上映作では、本作の他「デリー6(Delhi-6)」「季節(Mausam)」「ミルカ(Bhaag Milkha Bhaag)」に出演している。

 甘々なラブコメ風味な前半に対して、悲恋が強調されるシリアスな後半はデリーの学生紛争激しいジャワハルラール・ネルー大学(*6)を主な舞台とした、政治改革に燃える学生たちの物語ともなるものの、物語的にはそんな学生たちを肯定的にも否定的にも書いていないのも中途半端な感じ。それがクンダンから見たデリーの景色であり、デリーでのゾーヤーの生活なんだと言うことなのかもしれないけど、クンダン自身が本気で学生運動を支持しないので、あくまでゾーヤーの代わりに"やってあげてる"感が強くて…ね。
 無私の愛情でいえば「Veer-Zaar(ヴィールとザーラ)」ほど人生を犠牲にしてるように見えないし、「略奪者 (Lootera)」ほど、両者の愛憎が細かく描かれるわけでもない(*7)。その行動論理も色々「?」となる所が多いけど(*8)、とりあえず、ラストシーンでゾーヤーが一発クンダンをひっぱたいてりゃ、不条理な話が長ーく続いても映画的に丸く納まっただろうにぃ。


挿入歌 Banarasiya (ヴァーラーナシーの人は [ロマンチストに])




受賞歴
2014 Screen Awards 助演女優賞(スワーラー・バスカール)
2014 ETC Bollywood Business Awards 最高収入デビュー男優賞(ダヌシュ)
2014 Idea Filmfare Awards デビュー男優賞(ダヌシュ)
2014 Filmfare Awards デビュー男優賞(ダヌシュ)
2014 IIFAインド国際映画批評家協会賞 デビュー男優スター賞(ダヌシュ)
2014 Apsara Film Producers Guild Awards ダイアログ・オブ・ジ・イヤー(ヒマンシュ・シャルマー)
2014 Zee Cine Awards 助演女優賞(スワーラー・バスカール / Bhaag Milkha Bhaagのディヴィヤー・ダッタと共に)・デビュー男優賞(ダヌシュ)・台詞賞(ヒマンシュ・シャルマー)

2014 Bollywood Hungama Surfers' Choice Music Awards サウンドトラック第3位賞




「ランジャーナー」を一言で斬る!
・皆が色粉まみれの中、一人無傷に登場するソーナムは卑怯w そりゃ惚れてまうわー!

2015.6.12.
2019.9.9.追記
2021.11.26.追記
2022.1.13.追記

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*1 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*2 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*3 本名ヴェンカテーシュ・プラーブ・カストゥリ・ラージャ。
*4 カリーナ&カリシュマ姉妹やランビールのカプール家とは遠縁ではあるけど別系。
*5 35キロ減のダイエットだったとか…!!
*6 通称J.N.U.。左派学生が多いので有名なんだとか。
*7 似たような、男が運んで来たチャイを女が払い落とすってシーンがあるけど、重みが全然違う。…ま、シークエンスの狙いが全然違うわけだけど。
*8 病院から連れ出して、病み上がりのゾーヤーを恋人の元に運んでいったのに、衝撃の事実を突きつけられたからって、なんでそこからゾーヤーをおいて一人で放浪生活してるんでしょ? それ愛情の現れ?