インド映画夜話

サーホー (Saaho) 2019年 170分(ヒンディー語吹替版は174分)
主演 プラバース & シュラッダー・カプール
監督/脚本/原案/テルグ語台詞 スジート
"驚 天 動 地"




 犯罪都市ワージーはついに、インド人マフィアボス ナランタク・ローイの手中に入った。しかし彼は、ムンバイへの帰省中に、突如交通事故死してしまい裏社会に大きな衝撃が走る…!!
 これを機にワージーの支配者に返り咲こうと動き出すかつてのワージー首領の息子デーヴラージだったが、ナランタクが秘密裏に育てていた息子ヴィシュワク・ローイが、ローイ・グループの新代表に就任。皆が驚愕する中、彼は父のグループ計画推進と、父暗殺の真犯人探しを宣言する…!!

 その頃、ムンバイで殺人事件を捜査する警官アムリタ・ナーイルのチームは、そこに現れ事件を解決させた敏腕捜査官アショーク・チャクラヴァルティに抜擢されて、彼専門の捜査班へ編入されていた。
 多発する謎の大規模連続窃盗事件の捜査を進める彼らは、犯人と目される男の動向からローイ・グループの莫大な遺産を開く鍵”ブラックボックス"の存在を嗅ぎつけるのだが、その捜査情報は何者かによってデーヴラージ側へ流されてしまう。
 さらに捜査班が犯人確保に奔走する中で、警察本部から知らされるアショークの意外な真実が…!!


挿入歌 Bad Boy (バッド・ボーイ)

*メインで踊ってるのは、ヒンディー語映画界他で活躍するスリランカ人女優ジャクリーン・フェルナンデス!


 タイトルは、「万歳」とか「勝利を君に」の意とか。
 ヒンディー語(*1)、テルグ語(*2)、タミル語(*3)の3言語同時製作・同時公開となった大作アクション。
 その他、マラヤーラム語(*4)吹替版も公開されたよう。

 インドと同日公開でオーストラリア、カナダ、ドイツ、デンマーク、スペイン、フランス、英国、アイルランド、オランダ、ニュージーランド、フィリピン、米国でも公開。
 日本でも、2020年3月にテルグ語版が一般公開された。

 「バーフバリ(Baahubali)」人気に後押しされる形で話題を呼んだプラバース主演のマサーラー・サスペンスアクションの本作は、架空の犯罪都市ワージー、大都市ムンバイ、荒涼とした廃墟同然のカラナ村を主な舞台として、2兆ルピーの遺産を狙う各ギャング勢力たちの抗争と謀略を描いていく。
 どちらかというと、時代劇アクションの「バーフバリ」よりは、プラバースの過去の主演作「Billa(我が名はビッラ)」のノリに近いか。

 物語の大枠はそれほど難しくないにしても、登場するそれぞれのキャラクターの相関関係が次々に移り変わり数が増していく情報量の多い語り口は、その手のヤクザ映画系マサーラー文法に慣れている人向けという感じではあるけれど、とにかく主役演じるプラバースをこれでもかとアピールさせているプラバースのアイドル映画という強烈な画作りが印象的。
 背景となる各都市の画作りも三者三様に意図的に分けられ、蛍光色やハイテクイメージで固められたワージーは「バットマン(Batman)」や「ブレードランナー(Blade Runner)」的な匂いを醸し、インドを代表する経済都市ムンバイの喧騒は過去のインド映画を継承するか「007」ばりの明るいアクション風味の画作り。カラナ村はもう「マッドマックス(Mad Max)」の世界そのもののような黄土色世界で、それぞれに特徴付けられた舞台に各種登場人物たちがお互いに謀略戦を敷いた上でアクションするんだから、1度では理解が追いつかないのもむべなるかな…。そのアクションの豪快さもお金つぎ込んだ派手派手なシーンの連続ながら、まあ世界市場を狙いすぎたかな…と思わなくもない、アクション全フリの濃いい展開のオンパレードでございます。

 監督&脚本を手掛けたスジート(・レッディ)は、1990年アーンドラ・プラデーシュ州アナンタプラム県アナンタプル生まれ。
 当初は公認会計士を志望していたというけれど、途中から映画界に希望を変えて映画学校卒業後、2014年のテルグ語映画「Run Raja Run(ラン・ラージャ・ラン)」で監督&脚本デビュー。シーマ監督賞を獲得して、フィルムフェア・サウスの監督賞ノミネート、作品賞ノミネートもしている。本作はこれに続く2本目の監督作で、本作を基にしたTVゲーム「Saaho - The Game」の脚本も担当している。言われてみると、本作の作りもどこかゲーム的な匂いが濃厚…?

 まあしかし、こういうマフィアものインド映画を見てると思うのは「インド人男優って、ホント悪役顏が似合う人のオンパレードやなあ」ってことだったり。プラバースですら、腹ん中になに抱えてるかわからんドスの効いた不敵な悪役演技してると、声からなにからマフィアボスにしか見えませんわ。そうかと思ってると恋におぼれる青年演技してる時はもっと爽やかな声と顔に変わるんだから役者って凄え!

 マサーラー演出によるしつこく濃いい演出は、慣れてない人を置いてけぼりにする勢いながら、ボリウッドとトリウッドと言う南北インド映画界が手を組んでここまでの大予算娯楽映画を作り上げてるって企画構造は色々と今後にも期待大でありますことよ(*5)。インド各映画界が「バーフバリ以後」を意識せざるを得ない中で、どんな映画を作っていくかの試金石の1つとなったり…しないかなあどうかなあ。個人的には、カラナ村あたりのヴィジュアルとアクションが大好物なので、その辺を盛大にドヤった映画が見てみたいよー!

挿入歌 Baby Won't You Tell Me (べンビー・ウォンチュー・テル・ミー)

*ヨーロッパが舞台だったのに、歌が始まった途端急に中国その他にワープするよー!


受賞歴
2020 ETC Bollywood Business Awards 最高収益デビュー男優(プラバース)・100カロールクラブ入選


「Saaho」を一言で斬る!
・最先端高層ビル街には、やっぱ夜の雨が似合いますわ。

2020.9.26.

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*1 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。その娯楽映画界は、製作拠点ボンベイ+ハリウッドで俗にボリウッドとも呼ばれる。
*2 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。その娯楽映画界は、テルグ+ハリウッドで俗にトリウッドとも呼ばれる。
*3 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。その娯楽映画界は、製作拠点コーダーンバーッカム+ハリウッドで俗にコリウッドとも呼ばれる。
*4 南インド ケーララ州の公用語。その娯楽映画界は、マラヤーラム+ハリウッドで俗にモリウッドと呼ばれる。
*5 ま…本作はインド本国で大ヒットしつつも、批評家からはボロクソに言われて評判悪いみたいだけど。