サチン (Sachein) 2005年 154分
主演 ヴィジャイ & ジェネリア・デスーザ
監督/脚本/台詞/原案 ジョン(・マヘンドラン)
"我が友よ、彼女にまだ告白できないのかい?"
"いいか? それこそが愛なんだよ"
サチンはその日、空港にて出発手続きを済ませていた。
その空港に集まる多くの人たちの中で、別れを惜しんで何度もハグし合う恋人を見て、サチンはあの幸せだった頃を想起する…
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ウーッティ(*1)の陽気な大学生だったサチンは、ある時大学1の美女と噂されるシャーリニーに一目惚れするも、彼の軽口で当のシャーリニーを怒らせてしまった。それからは、なにかと衝突して喧嘩する2人だったが、周りはそんな2人を囃し立て、なんだかんだで毎日顔を合わせている2人の距離も近くなって次第に親友同士になっていく。
しかし、そんな大騒ぎの毎日の中で、大学構内の壁に誰かが「サチンはシャーリニーが好き」と大きく書いたものだから当のシャーリニーは激怒。サチンに問い詰めるも「僕が書いたものじゃない。誰かがやっかんだんだ。…でも、僕が君を愛してるのは本当だよ」と言い出したから、シャーリニーの怒りは収まらなくなってしまう。
しかしその後、突然現れた美女マンジューがサチンに急接近し、「シャーリニー、あなた本当にサチンのことなんとも思ってないの? じゃあ、私が2日以内に彼を落としてみせても問題ないわね?」と言われてしまったシャーリニーは…。
挿入歌 Gundu Manga Thoppukulle
タイトルは主人公の名前。冒頭のタイトル横に、副題として「…the miracle of love…(…愛の奇跡…)」と出てくる。
同じジョン監督作となる、2002年のテルグ語(*2)映画「Neetho」をアイディア元にしたタミル語(*3)映画。
公開後、ヒンディー語(*4)吹替版「Ghamandee」も公開されている。ヒンディー語映画界で活躍する女優ビバーシャ・バスの、タミル語映画デビュー作(*5)でもある。
日本では、2022年と2023年のインド大映画祭 IDEにて「サチン」の邦題で上映されている。
霧煙るウーッティを舞台に、「愛してる」がなかなか言えない不器用な大学生が織りなす青春ラブコメ。
いちおー、ヴィジャイ主演のマサーラー映画なんで町のチンピラとのジャッキー・チェンばりのケンカアクションもあれば、親子関係から来るしがらみ、過去の意外な事実とか色々な要素が盛り込まれているものの、映画そのものは爽やか青春恋愛劇に集中して作られていて、その語りは男性側主人公サチン目線で進むにもかかわらず、実質的主人公はヒロインのシャーリニーの方。お話は、大学1の美女を自他共に認められているお嬢様ながら自分に素直になれないシャーリニーが、自分の恋心を自覚し、はっきり口に出せるまでを描いて行く少女漫画もかくやな女性映画的に展開していく。
タミルの避暑地として有名なウーッティの洋風な街並みの爽やかさを強調するためか、どこにあってもスモークが画面内にたちこめられていて、屋台だろうと体育館だろうと食堂だろうと「霧煙る」リゾート地である事が強調されているのがなんとも。
そんな中で、いつも通りの男性側の一目惚れから始まるストーキングラブは、素直に「愛してる」が言えない大学生のいじらしいイチャイチャをこれでもかと展開させ、いつも以上に主役はじめ登場する大学生とその関係者たちの可愛らしいこと。
「口にして初めて恋愛関係が始まる」インドの物語文法において、簡単に告白してくる男たちを袖にするシャーリニーに、告白からではない恋愛表現を推し進める主人公像は、適度にやんちゃに、適度に皮肉的に、適度に優しさを滲ませて、顔は笑って眼差しは泣いてをばっちり効果的に画面に見せつけてくる麗しさ。
ま、そうは言ってもサチンはある程度親密になると「I love you」とさらっと言ってくる展開なわけだけど、そう言われてからはもうお話はヒロイン側が主導権を握って転がし始め、タイムリミットが設けられたサチンとの交流の中であってもその愛情を認めずに、自分の中に眠る恋愛感情に振り回されながらけして気づけないシャリーニーが実質主人公になっていき、恋愛物語をよりドキドキハラハラに進めて行くことになる。マサーラー文法の物語でも、こんなにも恋愛全推しに切ない青春讃歌映画に昇華できるものなのネ…と、また1つインド映画の可能性に着目したくなる1本でありますわ。
監督を務めたジョン(・マヘンドラン *6)は、タミル語映画界で活躍する映画監督兼脚本家兼男優のマヘンドラン(生誕名 J・アレクサンデル)の息子。
99年のテルグ語映画「Preminchedi Endukamma」で監督デビュー。続いて02年に「Neetho」を公開させ、その「Neetho」を翻案させた本作でタミル語映画監督&脚本デビューする。07年に4本目の監督作「Aanivaer」を公開させて以降は、11年のテルグ語映画「Dookudu」を始め脚本&台本ライター(&翻訳台本ライター)として活動しているよう。22年のタミル語映画「Raangi」では端役出演もしているらしい。
同じウーッティの大学を舞台にしている「ペーッタ(Petta)」と共通して、留年生がボス的に学生たちを仕切っている劇中大学の様子は、それでものほほんとメルヘン世界的なほのぼのさで描かれて、「ペーッタ」の殺伐さとは雲泥の差。悪戯の度が過ぎる面はあるけれど、基本的には素朴な気のいい連中ばかりの大学生活が、まあ楽しそうな事。主人公2人以外は親の影響などの背景が全然登場せず、授業の様子もほとんど出てこないので、ウーッティの涼しげな街並みの中で暇してる学生たちのイチャイチャがこれでもかと描かれる楽しさよ。友達や恋人とあーだーこーだダベる以外に暇つぶし方法がないのかもだけど、こんなのどかな大学生活できるもんならやってみたいもんだヨゥ。
期待したビパーシャの出番は、恋の鞘当て程度で出演シーンも限定的。ムリクリゲスト出演のシーン作りましたみたいな扱いの軽さではありましたけど、ヒロイン演じるジェネリアの美貌と可愛らしさを何倍にもアップさせる引き立て役って事で納得もしましょうか。
あと、所々、ふとしたカットの画面レイアウトが綺麗に構築されていて、雑誌の切り抜きのような整然さが映画全体を締める美しさが効果的。
ウーッティという避暑地、ミュージカルで描かれるヨーロッパの風景両方をつなげる演出的な意図的な撮影方…とかだったのかどうなのか。気になりますよジーヴァ撮影監督!(*7)
挿入歌 Dai Dai Dai Kattikkoda
「サチン」を一言で斬る!
・スカートでバスケは、やりづらそ…
2023.2.10.
2023.4.29.追記
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*1 タミル・ナードゥ州ニーラギリ県ウダカマンダラムの愛称。
*2 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*3 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*4 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。フィジーの公用語の1つでもある。
*5 23年時点で唯一のタミル語映画出演作。
*6 クレジットでは"Johan"と出てくるので"ジョァン"か"ジョハン"、"ヨハン"と読むべき? かもなんだけど、ネット情報では"John Mahendran"とどこも書いてあるのでこっちが本名ってことなのか、どちらも"ジョン"と読むとかなんだろかどうだろか。
*7 90〜00年代まで南北インド映画界で活躍する撮影監督兼監督兼脚本家。マニ・ラトナムの「ボンベイ(Bombay )」ではスチル撮影カメラマンとして参加してたりする。
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