Shiraz 1928年 85分(97分/106分とも)
主演 ヒマンシュ・ラーイ(製作&監修も兼任) & エーナクシー・ラーマ・ラウ & チャルー・ローイ
監督 フランツ・オーステン
"さらばセリマよ! 太陽があなたの道を照らし忘れることのないよう、皇子の心の中にいつまでも貴女が祀られますように"
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今から300年以上も昔…。
ペルシャの砂漠で襲われた隊商から生き残った女児が、旅先案内人のハサンに拾われた。ハサンは、神からの贈り物だとして、息子シーラーズとともにこの女の子を育てようと決意しセリマと名付ける。彼女が身につけていた首飾りをお守りとして…。
やがて美しく成長するシーラーズとセリマだったが、ある日、奴隷商人がセリマを誘拐し、奴隷市場にてインドのフッラム皇子(後のムガル皇帝シャー・ジャハーン)の使者カシム・ナーズィルに売り渡してしまう。自由民としての誇りにかけて、奴隷になることを拒否するセリマの美貌に興味を持ったフッラムは、彼女に貴族同然の待遇を施し、次第に愛するようになるが、皇子と結婚してインドの皇后になる夢を抱く将軍の娘ダリアは、これに激しい怒りを燃やすことに…!!
その頃、セリマを追ってインドにやって来たシーラーズは、下町の壺職人に弟子入りしてその才能を発揮しつつ、宮殿にいるであろうセリマと接触する機会を伺い、ダリア付きの女官に近づいてセリマへの手紙を託すのだった…。
Bringing lost cinema treasures to life at British Film Institute
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20年代後半〜30年代にかけて活躍した、ドイツ人映画監督フランツ・オーステンによる独印英合作インド史劇3作の2本目となる、タージ・マハル建立をめぐるムガル時代の様子を描くサイレント映画。
副題は「A Romance of India」。その物語は、監督の前作「亜細亜の光(Prem Sanyas)」とともに、劇作家(*1)ニーランジャン・パル原作による戯曲を映画化したものとなる。
ドイツ語タイトル「Das Grabmal Einer Grossen Liebe(大いなる愛の墓標)」他でも公開。
2017年には、音楽を新規に作曲し直したBFI(= British Film Institute)によるリストア版がロンドン映画祭で初公開され、各映画祭を周って再評価されているよう。
インドの物語上で、よく「純愛カップル」のたとえで登場するムガル皇帝シャー・ジャハーンとムムターズマハル皇妃(*2)の2人が結ばれて行く過程と、その死別を描く映画だけれども、特に歴史考証されたものというわけでなく、物語そのものは完全に架空の話で作られている。なんとなーくその作風は千一夜物語的な気もしないではない…(*3)。
「亜細亜の光」や本作の後のフランツ・オーステン監督作「南国千一夜(A Throw of Dice)」では、儚き美女を演じていたシーター・デヴィが、本作ではヒロインをおとしめる悪女ダリアを演じてるのも見どころ。
また、「亜細亜の光」でブッダ役を、「南国千一夜」では悪役を演じるヒマンシュ・ラーイが、本作ではおとなしい系職人主人公シーラーズを演じていたりする所も、オーステンのインド史劇三部作における一作ごとの配役バランスをキャスト同士色々「これやってみたい!」みたいな意見交換しながらやってたのかねえ…とかとか、勝手な深読みできそうな所も楽しい。
そんな中で、本作の顔とも言えるセリマ=ムムターズマハルを演じているエーナクシー・ラーマ・ラウ(別名エーナクシィ・ラーマ・ラオ)は、インド映画初期に活躍した女優の1人。
詳しい情報が出てこないけども、本作で映画デビュー(?)したのち、M・バーヴナーニ監督作のサイレント映画〜トーキー映画に出演し、30年代に活躍した主演女優…のよう。
ドレスアップすると、セリマとダリアの顔の区別がつかなそうに見えてしまいかねない感じだったけども、しっかり善人セリマを白系衣裳で、悪人ダリアを(やや)黒系(*4)衣裳で登場させてる画面的配慮はさすが。まあ、それ以外の登場人物も、悪役かそれに準ずる役割の人を黒くしすぎなきらいもないことはないけれど。
意外なのは、ペルシャの農村にいた頃のセリマが、足の形がはっきりわかるくらいのズボン(*5)を履いて、ファッションリーダー的に足をはっきり見せつけてるシーンが出てきてたり、インド映画史上初のキスシーン映画と言われた「南国千一夜」よりも前の本作に、キスシーンが複数回入ってたりしてて、「ほほ〜」って感じ。色々映画を見てみるものじゃわい。
お話のほとんどは、美女セリマをめぐるシーラーズとフッラム皇子率いる王宮人たちの対立を描いていて、これでもかとセリマ演じるエーナクシー・ラーマ・ラウの美しさを魅せていく映画になっている(*6)。
ラスト近辺で、和解ののち盛大な皇帝の結婚式を描いて、すぐにムムターズマハルの死からタージ・マハル建設のエピソードが描かれていく中で、長い期間を経て再会する恋敵同士のお互いの想い人を失った悲しみを共有する様もまた濃密。映画内の時間配分的には短いながら、老年期に達したシーラーズとシャー・ジャハーンの寂漠感で映画を締めていく詩的な構成は、「いいもん見せてもらった」と感じられる程よい重厚さでありますことよ。
それぞれのエピソードをつなぐ起承転結のテンポも軽快で、サスペンス的展開もあってすごく見やすいしグイグイ引き込まれるしで、その主な舞台となる王宮の華麗さ(*7)も相まって、タージ・マハルの観光ムービーであるとともに、映像密度の濃いインド映画の原点を見せられるような映画でございますわ。
Silver Screen magic: inside the British Film Institute vaults
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「Shiraz」を一言で斬る!
・フッラム皇子の後宮入口を警護する、抜き身の刀を肩に担ぐ女官たちの迫力よ…。
2018.3.29.
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*1 後には映画監督兼脚本家にもなる。
*2 "愛でられし王宮の光彩"の意。史実では本名アルジュマンド・バーヌー・ベーグム。
帝国の国政を任されていたペルシャ系貴族アーサフ・ハーンの娘として生まれている。
*3 より史実に近い時代劇が見たいなら、63年のヒンディー語映画「Taj Mahal(タージ・マハル)」とか色々あるみたいだよ!
*4 白黒画面的に。実際はどんな衣裳で黒っぽくしてたのだろう…?
*5 パンタロン的な? …当時のペルシャ人の衣装なのかどうなのか?
*6 まあ、魅力の描き方が「亜細亜の光」のシーター・デヴィのアピールの仕方と変わんないじゃん、って気もしないじゃないですが。
*7 ロケ地はどこなんでしょ?