インド映画夜話

炎 (Sholay) 1975年 204分
主演 ダルメンドラ & & アミターブ・バッチャン & アムジャード・カーン
監督 ラメーシュ・シッピー
"ヴィールとジャイ。彼らは犯罪者だが……彼らは人間だ"







 その日、元警部のタークル・バルデーヴ・シンは、長年ラームガル村を苦しめるダクー(武装盗賊)の討伐…特に首領ガッバル・シンを生捕りにすること…を目的に、かつて知り合った無法者の二人、ヴィールとジャイを探し出してほしいと警察に依頼していた。

 この二人は、以前にタークルに逮捕され護送される中、襲ってきたダコイット(山賊)を撃退し、重傷のタークルを病院まで運んでくれた過去があった。
 犯罪者ながら信用できると踏んだタークルは、彼らが出所する刑務所で待ち構えてガッバル・シン討伐を依頼する。いきなりの話に驚く二人だったが、高額な報酬もあり「コインの出た目に従おう。表が出たらタークルの村に行く。裏が出たら…」とジャイが投げたコインが見せたのは…表!!

 そんなこんなでラームガルに到着した二人だったが、タークル邸まで馬車を出してくれた少女バサンティにヴィールがさっそく一目惚れ。
 陽気にタークル邸に到着した所でいきなりの襲撃に遭う二人は、なんなくこれを撃退するも「お前らを試したまでだ」と冷たく言い放つタークルに怒った二人は、その夜に彼の金庫をこじ開けてトンズラしようとする。しかし、その金庫の目の前でタークルの義娘の寡婦ラーダが現れ、二人に金庫の鍵を渡すのだった…。

 結局、気分を削がれて村に留まった二人はそれぞれ、気になる女性を追いかけたり村の仕事を手伝ったりと気楽に過ごしていたが、ついにダグーの手先が現れ、二人の活躍によってこれを撃退する!
 初めてダグーの鼻を明かしてやった村人は春祭ホーリーに狂喜乱舞するが、そこにガッバル・シン率いるダグー全員による村への奇襲が!!
 なんとか応戦するヴィールとジャイだったが、途中でジャイが孤立して絶体絶命。その時、そばに銃が落ちていたにもかかわらず、タークルは応戦するでもなく、ただガッバルをにらみ続けるだけだった…。


挿入歌 Mehbooba Mehbooba (愛される人よ)

*近くにジプシーが来ていることを知らされたヴィールたちは、彼らを利用してガッバルたちを一網打尽にしようと一計を案じる…。
 踊っているのは、ゲスト出演のヘレン(当時のトップスターの一人)。後に本作で脚本を担当してるサリーム・カーンと結婚して、かのサルマーン・カーンの義母になる人。
 お教え頂いた所、この曲、原曲となる歌が別にあるそうで。



 原題の意味は「残り火」。
 インド映画史上に輝くボリウッド・ウェスタンの大傑作!
 上映されるや8年間もロングランし、現在も断続的に上映され続けているそうな。この大ヒットに乗ってアミターブの名声が頂点に達した作品で、後世への影響力は言うに及ばず。現在もなお、全インド人の心に響く名作中の名作!!
 ボリウッドファンが集まると、この映画は「基本、みんな見ているもの」として扱われるくらいの有名作である!

 日本では、1988年の大インド映画祭で初上映された他、各地のインド映画上映会を渡り歩き、最近では2010年東京国際映画祭で「ラーヴァン」とともに特別上映された。東京国立近代美術館フィルムセンター所蔵作品の1つでもある。2022年には、JAIHOにて配信。2024年には、福岡アジア美術館開館25周年コレクション展「アジアン・ポップ」にて、解説トークつき特別上映もされている。

 お話そのものは「荒野の七人」(*1)をヒントにインド的に翻案させたもの。
 主役ヴィールには、当時人気絶頂期だったダルメンドラ。相棒のジャイ役には人気急上昇中のアミターブ・バッチャン。本作が当たったことで80年代のキングへの道を歩むことに…なったんかな?
 後々まで語り継がれるほどの極悪非道な伝説の悪役ガッバル・シンを演じたのは、これが映画デビュー作となる(!!)アムジャード・カーン。
 ヴィールと恋仲になるヒロイン バサンティには、当時ダルメンドラと公認の愛人関係にあったとか言うヘーマー・マーリニー(*2)。ジャイのお相手役の悲劇のヒロイン ラーダには、当時アミターブと結婚したてのジャヤー・バードゥリー。話の発端を担うタークル役には、往年のトップスター サンジーヴ・クマール…と、当時のトップスターを集めた超豪華マルチスター映画。

 キャスティングもスゴければ、その物語構成も素晴らしい。
 西部劇である「荒野の七人」を下地に、インドの物語文化の底流をなす叙事詩「ラーマーヤナ」を融合させ、インド独自の物語に昇華させることに成功している。
 主役を7人から2人の相棒に減らしたことで(*3)、味方側の事情をさっさと説明して、事件との因果関係について時間を割いていくことで、スピード感とラストの異様なタークル像が印象的になっていくように作られている。ガッバルの狂気とタークルの狂気が等価値で描かれていく構成はさすが。
 まぁ、あんなに憎々しげで嗜虐趣味全開な感じだったガッバルの最期が、妙に弱々しいのはおや? って感じではあるけども…。その辺の悪の悲哀みたいなものが、ガッバル人気を後押しするようになった…んかな?

 今見ると、展開がゆっくりめで牧歌的な感じながら、現在のボリウッドに様々な形で引用される映画だけに、元ネタ確認の意味だけでも必見の映画でありまする!
 わりと無茶な場所でのアクションシーンとか、現在のボリウッドではあんまり見られないノリも楽しかったり。

 にしても、この頃の丸顔ジャヤーさんはお美しい!
 んで、ダクーとダコイットの違いってなに?


挿入歌 Holi Ke Din (ホーリーの日)



受賞歴
1975 Filmfare Award 編集賞
1976 Bengal Film Journalists' Association Awards ヒンディー映画助演男優賞(アムジャード・カーン)・ヒンディー映画撮影賞・ヒンディー映画美術監督賞
2005 Filmfare Best Film of 50 Years 50年間のベスト1映画賞

2011.11.2.
2022.7.30.追記
2024.8.8.追記


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*1 この映画自体が、黒澤明の「七人の侍」のハリウッド的な翻案ものだけど。
*2 後に正式にダルメンドラと結婚。2人の間に生まれたのが女優イーシャ・デーオール。
*3 明らかに「ラーマーヤナ」におけるラーマ王子とその弟ラクシュマナの投影。