インド映画夜話

スルターン (Sultan) 2016年 170分
主演 サルマン・カーン & アヌーシュカ・シャルマー
監督/脚本/原案/台詞 アリー・アッバス・ザファール
"レスリングは競技ではない。内なるものとの闘いだー"




 客足がつかないインドでの総合格闘リーグPRD(プロテイクダウン)の創始者アーカーシュ・オベローイは、出資者たちを説き伏せあと6ヶ月の猶予を得るが、打開策を打ち出せないでいた。
 外国選手ばかりが活躍するリーグでは人気を得られない。だれか、外国人選手を薙ぎ倒す有力インド人格闘家を連れて来なければ…。悩むアーカーシュに父親が語りかける。「いるさ。スルターンがいる。彼の試合は素晴らしかった…!!」

 かつてハリヤーナー州のレスラーたちを地にひれ伏させ、州を代表するレスラーであり金メダリストとなったスルターン・アリ・カーンは、現在は水道局に勤めるしがない役人。彼に総合格闘技への出場をオファーするアーカーシュだったが、スルターンは「もうレスリングはやめた」と断言して彼の誘いには乗ってこようともしない。
 困ったアーカーシュは、スルターンの地元の友人ゴービンドを探し出して彼の過去を問いただす。「話せば長い話ですよ…長い長いラブストーリー…」


挿入歌 Baby Ko Bass Pasand Hai (ベイビーは、ベースが好きなのさ)


 タイトルは主人公の名前で、その語義はアラビア語由来の「帝王」「皇帝」「王」の意。
 最近、徐々に数を増やしているスポーツものヒンディー語(*1)映画で、格闘技に生きる人間の生き様を描く大ヒット・ボリウッド大作。
 日本では、2016年にSPACEBOX配給で上映され、「スルタン」のタイトルでDVD発売。翌17年には、IFFJ(インディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパン)にて「スルターン」のタイトルで上映された。

 実際のメダリスト女子ボクサーの自伝を元にした「Mary Kom(メアリー・コム)」のような、格闘技によるサクセスストーリーの映画かと思いつつ見ていたら、前半こそクシュティー(*2)やレスリングを通して、恋もメダルも手に入れる野心的かつお調子者の主人公スルターンの活躍を描く映画ながら、後半はその失意からの人生の再出発・再始動を描く熱い人生讃歌、格闘技を通して「生きるとはなにか」を問う生命讃歌の映画でありました。

 ハリヤーナー州の田舎町を舞台とする前半は、わりとレトロ風味な恋物語が続いて若干飽きていたものの、回想シーンが終わった後半から、さまざまなものを失った主人公が再起して新境地に足を踏み入れて行く展開は、どんどん燃える演出が続いて目が離せなくなる。
 いつにもまして年齢不詳気味なサルマン演じるスルターンが、自分のだらしなく膨らんだ身体を嘆き、数々の修行を通してズッシリとした筋肉を身につけて行くシークエンスも「ああ…よかったねえ」と応援してしまう頼もしさ。まあ、これまでのサルマン筋肉に比べるとなんとなく妙に風船っぽい見た目の筋肉で、終始ドタドタした動きな気もしないでもないけどさ(*3)。
 総合格闘技で主人公スルターンの相手をする格闘家たちが、本人役で実際の格闘家が出演しているのも見もの。レスリング出身のアメリカ人総合格闘家タイロン・ウッドリー、アメリカ人総合格闘家兼役者のマリーズ・クランプ、チリ出身で米国で活躍する武道家兼スタントマン兼役者のマルカス・ザロールなんかが対戦相手として出演しており、メイキングで色々と語ってくれている(*4)。

 本作の監督を務めるアリー・アッバス・ザファールは、04年の英語+ヒンディー語映画「Lakshya(志)」の装飾助手、ヒンディー語映画「Chai Pani Etc.」の小道具、「Let's Enjoy」の美術監督としてヤシュラジ・フィルムズで働いていた人物。翌05年の「Yatna」以降助監督を続けて行く中、07年の中編英語映画「Delhi Boom!」で主役級で出演、11年の「Mere Brother Ki Dulhan(我が兄の結婚)」で監督&脚本デビューする。14年の大ヒット作「ならず者たち(Gunday)」をはさんで、本作が3本目の監督作となり、本作でフィルムフェア監督賞ノミネートしている。
 続いて、サルマン主演作「タイガー(Ek Tha Tiger)」の続編となる「Tiger Zinda Hai(タイガーは生きている)」を監督している。

 いまいちレスリングや総合格闘技のルールがわからない身ながら、「メアリー・コム(Mary Kom)」みたいな力押しだけの試合描写ではなく、しっかりと戦術と駆け引きを演じさせつつ、詳細になりすぎる描写を避けて、ドラマとスポーツ技術面を効果的に組み合わせてくれている所はウマい! の一言。たびたび出てくるスルターンの語る「内なるものとの闘い」が、ラストに向けてしっかりと効果的に表現されるシーンは思わずうなってしまうほどのインパクトですよ!

 まあ、希少血液型であることが判明してて、そのままなんの対策もなしに格闘技を続けることを周りが許しているってのはありなの? と思わんでもないけど、身体1つで成り上がる必要があるインドの経済環境のキビシさかなあとしておくべきか。

挿入歌 440 Volt ([君の軽いタッチは] 440ボルトの衝撃)


受賞歴
2017 Stardust Awards 衣裳デザイン賞(アルヴィラー・カーン & アシュレイ・レベッロ & Yash Raj Films)
2017 上海国際映画祭コンペティション部門ジャッキー・チェン・アクション映画 最優秀アクション映画賞
2017 Zee Cine Awards 主演男優賞(サルマン)・主演女優賞(アヌーシュカ)・作詞賞(イルシャード・カミル / Jag Ghoomeya)
2017 Filmfare Awards 女性プレイバックシンガー賞(ネーハ・バシーン / Jag Ghoomeya)
2017 Awards of International Indian Film Academy 音響ミキシング賞(アヌージ・マトゥール & Wizcraft International)


「スルターン」を一言で斬る!
・ボタン恐怖症の身としては、いつもスルタンが着てるポロシャツがスゴい気になってまう…。そして、対照的にアーカーシュのビジネスマン然としたド派手な紫ラメシャツのインパクトよ…。

2018.1.5.

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*1 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*2 インドをはじめ南〜西アジアに広まる伝統的な相撲型格闘技。別名コシティー、パハラワーニーとも。
*3 サルマンは、役作りのために実際に体重を増減させ、だらしない身体〜アヌーシュカ共々レスリング特訓によるアスリート体型を作り上げていたそうだけど。
*4 字幕なしの英語で。