まあ、たしかに画面的に「バーフバリ(Baahubali)」への対抗意識めいたものを感じないではないし(深読みでしかないですが)、過去のアーミル主演作「ラガーン(Lagaan)」の成功要素や「Mangal Pandey: The Rising(マンガル・パーンデーイ)」の失敗要因を生かそうとしている風にも見えてしまう所(深読みでしかないですが!!)は鑑賞の邪魔になりそうな感じではあるものの、老練なる海賊首領を演じるクダーバクシー役のアミターブの風格、サイレント映画スターのような演技を目一杯魅せてくれるフィランギー役のアーミルの油断ならなさなんかは、一見の価値ありまくり。主役補正もありまくりなお話ではあっても、それぞれの信条に従った誇りとともに生きる海賊団の面々の立ち回りのカッコ良さや対立具合、インド映画では珍しい海洋冒険劇的な船上での戦いを見せていくアクションの絵面なんかも、なかなかのもんでっせ。
主役フィランギーを演じたのは、言わずと知れた名優アーミル・カーン(生誕名ムハンマド・アーミル・フセイン・カーン)。
1965年マハラーシュトラ州ボンベイ(現ムンバイ)生まれで、父親は映画プロデューサーのターヒル・カーン。叔父の映画監督兼プロデューサー兼脚本家のナシール・カーンを始め、親戚に著名な映画人が並ぶ映画一族出身。弟ファイサル・カーン、従弟イムラーン・カーンも男優として活躍中。
叔父ナシールの監督作となる73年のヒンディー語映画「Yaadon Ki Baaraat(記憶の連なり)」などに子役出演して映画デビューするも、学生時代は売れない映画プロデューサーだった父親とともに困窮生活を強いられることもあったとか。両親からは映画人ではなく医者かエンジニアになることを勧められつつ、州代表レベルのテニスプレイヤーとして活躍。一方で、親に内緒で友人のアディティヤ・バッタチャルヤーの短編映画「Paranoia」に参加したことをきっかけに演技に目覚め、劇団アヴァンターに参加して舞台演劇を経験。高校卒業後に、本格的に映画界を志して叔父の監督作「Manzil Manzil」の助監督として働くことで映画界に参入する。
ドキュメンタリー映画を介して映画監督ケータン・メヘターに見出されて、84年のメヘター監督作「Holi」で本格的に男優&歌デビュー。88年の従兄マンスール・カーンの監督デビュー作「Qayamat Se Qayamat Tak(破滅から破滅へ)」で主演デビューし、翌年公開のバッタチャルヤー監督作「Raakh(灰)」とともにナショナル・フィルムアワード特別賞他多数の新人賞を獲得し、一躍トップスターに名を連ねる。以降、ヒンディー語映画で大活躍し、史上初めて米国アカデミー賞外国映画賞ノミネートに選出されたインド映画となった「ラガーン(Lagaan)」では主演の他プロデューサーデビューもしていて、1作ごとにボリウッド業界を変革させる"アワードキラー"として、その完成度への追及から"ミスター・パーフェクト"としての名声を獲得。12年からは、TV討論番組「Satyamev Jayate(真実こそが勝利する)」にも出演し続けて社会活動にも積極的に参加。TIME誌選出の2013年度「世界で最も影響力のある100人」の1人に選ばれている。