移動映画館 (Touring Talkies) 2013年 107分 かつて、インド中に存在した移動映画館は農村部の人々が映画に接する唯一の施設だった。時は過ぎ、現在はただマハーラーシュトラ州に48館あるに過ぎない…。 移動映画館育ちのチャンディと弟のバビヤは、お祭りのために設置される即席遊園地でテントを張り、同業者と張り合いながら移動映画館を運営している。しかしその日、客を呼べるB級ブルーフィルムを流すテントの裏で、一家の責任者バブー・セス(チャンディ姉弟の父)は同業者たちとの酒の席の賭博にのめり込み、ついには自分の映画館の権利を売り払ってしまう! 怒るチャンディは、権利金を稼げば映画館を買い戻してもいいと言われ、猶予をもらって客を呼び込もうと必死。しかしフィルムは権利を盾に同業者に持っていかれてしまい、途方に暮れている所に、手違いで新作アートフィルムを運んで来た映画監督兼プロデューサーのアヴィナーシュと出会う。チャンディは、この場違いなアートフィルム「白い染み」を逆手に取ってあの手この手の宣伝戦略で荒稼ぎを開始。当の映画製作者アヴィナーシュは、今まで見た事も考えた事もない移動映画館の世界を見つめながら、映画にたずさわる多くの人々の暮らしを観察するように…。 プロモ映像 Touring Talkies ボリウッドのお膝元、マハラーシュトラ州ムンバイを製作拠点にするマラーティー語(*1)映画の傑作登場! 女優兼プロデューサーのトルプティ・ボイルが、「ナメられないために」男装する主人公の少女チャンディを演じた、インド映画をめぐる辺境地域の様子を描く映画。 日本では、2013年IFFJ(インディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパン)にて上映。その後、2015年にも高崎映画祭、2017年には仙台のトランシネマ第5回上映会でも上映された。 かつては人気産業でありながら経済発展と技術革新によって没落産業になっていった、農村部を巡り渡る移動映画館で生きる人々の生き様を描く本作は、そこに関わる人々のバイタリティ、人生観、喧噪と寂獏を時に詩的に、時にコミカルに、時に悲壮に浮かび上がらせる。 映画産業版ジプシーとも言える移動映画館にたずさわる人々の生活の有り様は、それだけで異国情緒たっぷりなわけだけど、そこに現れる現地の生活と直結した娯楽産業の有り様は、まさに大衆芸能そのもの。観客の見たいものを扇情的に煽り、入場特典にアクセサリーや化粧品や電化製品を用意し、綺麗どころの映画女優との(半ば無理矢理な)触れ合いの場を作り、場合によってはコラージュでポスターをでっち上げ、勝手にフィルムに手を加えて客をさらに呼び込んでいく。そのあの手この手のバイタリティあふれる宣伝戦略は、法律や礼儀作法に守られるスタイリッシュな都会人なんかとは比べ物にならないくらい力強く、泥臭く、清濁併せ持った娯楽への欲求を素直に見せつけてくれる。 映画館用のテントに集まる人々の、憑かれたような熱狂と、これほどまでも! と言う笑顔、その裏側で映写機を動かすチャンディたち姉弟の姿や、スピーカーである事ない事まくしたてる宣伝担当、仏頂面でチケットのモギリをやってる父親の様子など、生活感あふれる興行の様子と喧噪が、わびしくも美しく清々しく、もの悲しい。 男の子に扮する主人公の少女チャンディを演じるのは、本作のプロデューサーも兼任するトルプティ・ボイル(*2)。 女優として学生時代から活躍していた人で、演劇やTVドラマで活躍する中、2000年のマラーティー語映画「Bagh Haat Dakhavan」で映画デビュー。2作目の出演作である2008年公開作「Tujhya Majhya Sansarala Aani Kaay Hav」からプロデューサーとしても活躍を始める。本作では、主演兼製作として"移動映画館"と言うインドの映画文化の重要性を強くアピールしている。 とにかく、映画産業そのものへの愛情の詰まった一本。 100年の映画の歴史の端にある、映画興行を知り尽くした人々の生き方と儚さが有り余るほどに映し出される愛すべき一本。 テレビ特番(マラーティー語)
「移動映画館」を一言で斬る! ・出来る事全てを映画興行につぎ込む気迫、広告宣伝にたずさわる人間は全員見習うべし! 見習えばいいじゃない!! 見習え…るかなぁ?
2014.3.28. |
*1 マハラーシュトラ州の公用語。本来ムンバイはヒンディー語圏ではなくマラーティー語圏の地域なんですよ! *2 公開当時33才で違和感なく少女役を熱演! |