インド映画夜話

進めクマール! 恋愛必勝法 (Theeya Velai Seiyyanum Kumaru) 2013年 138分
主演 シッダールタ & ハンシカー・モトワーニー & サンタナム
監督/製作/脚本/原案 スンダル・C
"彼女に会えば、涼風は舞いあがり身体は空を飛ぶかのよう。残る仕事は…わかってるよな?"






 三代に渡って恋愛結婚の夫婦を排出する家、通称"タイタニックハウス"に産まれたクマール。しかし彼は、過去の様々な痛手からすっかり恋愛から遠ざかり興味を失っていた…。

 だが、運命の日は突然訪れる。
 チェンナイでITエンジニアになっていたクマールはその日、会社の新人美女サンジャナーに一目惚れ! それまでとはうって変わって、なんとか彼女の気を引こうとがんばるクマールだが、奥手で気弱な彼はいつも会社のイケメンボス ジョージに先を越されてばかり…。

 なんとか挽回しようと、義兄の勧めで恋愛相談所にやって来たクマールは、所長モキアに相談料をふんだくられながら、彼のトンチキな恋愛指導に振り回されていく。
 その勢いで、会社のパーティー中にサンジャナーに告白しようとするも、彼の目の前でボスのジョージがサンジャナーにプロポーズ!! 彼女は、戸惑いつつもジョージの持って来た花束を笑顔で受け取ってしまった!!
 その翌朝から、傷心のクマールはモキアの「恋人になれないなら、恋敵になればいい」と言う勧めに従って、ジョージをサンジャナーから引き離そうと計略をめぐらせるが…。


挿入歌 Lovukku Yes ([彼女は]ぼくの愛に"イエス"と言った)

*ウィーアー ベ〜リー 信じてー クマール〜♪


 タイトルは、タミル語(*1)で「炎のように働け、クマール」。略称TVSK。
 同時製作で、一部キャストが入れ替わったテルグ語(*2)版「Something Something」も公開。
 日本では、2020年にNetflixにて「頑張れクマール!」のタイトルで配信。22年には、IMW(インディアン・ムービー・ウィーク)にて「進めクマール! 恋愛必勝法」の邦題で上映。同年に、新潟の高田世界館でも1日限定上映されている。

 2013年のコリウッド(*3)日本ロケブームの先陣を切った映画で、富山県ロケが行なわれたことが(日本人の中で)話題になった映画。
 タミル語映画の日本ロケとしては実に28年ぶり(*4)。ただし、ミュージカルシーンにのみ富山の風景が出て来るだけで、お話的には日本とはなんも関係なし。
 タイトルは、2006年のタミル語映画「Pudhupettai」の台詞からの借用だそうで。

 物語はたあいないラブコメではあるものの、テンポよく話が転がっていくし、気弱な主人公と人生に積極的な周りの登場人物たちの関係性の変化具合なんかは、見てるだけでオモロ可愛い。コメディ演技なシッダールタは、結構ハマってますわあ。

 主役クマール演じるシッダールタ(・ナラーヤン)は、タミル・ナードゥ州チェンナイ出身でデリー育ちの役者。
 学生時代から演劇や討論会で活躍し、卒業後に映画監督を志望して2002年マニ・ラトナム監督作のタミル語映画「Kannathil Muthamittal(頬にキスを)」で助監督(*5)として参加。その後勧められて受けたオーディションを経て、03年の「Boys」で主役デビューしITFA新人男優賞を受賞。05年には「Nuvvostanante Nenoddantana(貴方が来るのを、イヤと言える?)」でテルグ語映画デビューし、フィルムフェア・サウスのテルグ語映画新人男優賞を受賞。さらに翌06年には「Chukkallo Chandrudu」で主役兼脚本兼プレイバックシンガーも手掛け、同年「黄色に塗りつぶせ(Rang De Basanti)」でヒンディー語映画デビューしてスクリーン・アワードの新人賞を獲得した。現在主にテルグ語・タミル語映画界で活躍中。2012年には、主演作「Kadhalil Sodhappuvadhu Yeppadi(愛を台無しにするには)」でプロデューサーデビューも果たしている。
 本作の日本ロケでは、是非とも富山の高岡大仏の前で踊ってほしかった…ですわあ。

 ヒロイン サンジャナーを演じたハンシカー・モトワーニーは、ムンバイ出身の女優兼モデル。
 ビジネスマンの父と皮膚科医の母から生まれ、子役としてヒンディー語テレビドラマに出演しながら、2003年のヒンディー語映画「Koi... Mil Gaya(あの人を見つけた)」などで子役出演した後、07年のテルグ語映画「Desamuduru」で本格的に主演女優デビューしてフィルムフェア・サウス新人女優賞を獲得。同年にヒンディー語映画「Aap Kaa Surroor」にも出演してフィルムフェア新人女優賞にノミネートされた。現在、主にテルグ語・タミル語映画で活躍中。

 本作で異彩を放っていたのは、現在タミル語映画のコメディ俳優として大活躍中の(N・)サンタナム。テレビショーで注目されて、2002年に「Pesadha Kannum Pesume」「Kadhal Azhivathillai(愛は砕けない)」にノンクレジット出演後、04年に「Manmadhan」で本格的に映画デビュー。年々出演作を増やしていって、2009年の「Siva Manasula Sakthi(シャクティは、シヴァの心に)」を皮切りに4年連続ヴィジャイアワードのコメディアン賞を受賞し続けた。2013年には「Thalaivaa(リーダー)」で歌手デビューも果たしている。日本公開作でも「ロボット(Enthiran)」「神さまがくれた娘(Deiva Thirumagal)」でその活躍を見ることが出来るので、要チェック!

 特にサンタナムは、コメディアン以上に役者として本作で大活躍しっぱなしで、登場シーンから怪しさ大爆発で笑かしてくれる。シッダールタともいいコンビに演技してたのが印象的。カメラワークやカットのつなぎ方にマンガ的演出が多いこの映画のノリにシンクロして、とても楽しそうに演技しとります。果物ナイフ持ったサンジャナーに追いかけられるシーンは、本物のナイフ投げつけられてんのかなぁどうなんかなぁw
 気弱なクマールやアクの強い周りの登場人物の中にあって、比較的普通人(特徴がないとも言える)のサンジャナーが、周りの恋愛事情に巻きこまれつつ自分の立ち位置を確保していくのも微笑ましいけれど、どっちかと言うと彼女のルームメイトたちの方が印象的。サンジャナーの恋愛相談で、賛否両論まくしたてるのに例え話が全部映画スターになってるのも「恋バナがそれでイイんかい」てな感じw にしても、クマールみたいに会社ぐるみで「早く結婚相手見つけろよ」とか言われまくるのも大変そ。
 結婚の障壁となる家族(*6)の存在が、変則的に話の核に入り込んでる手法も、軽快かつオモシロ。

 ミュージカルシーンの日本ロケは、インド映画の中にあって見るとなんとも不思議。「Enna Pesa」の雪の五箇山シーンなんかは、クマールの心情ともシンクロして本当に美しく幻想的なシーンだったけれども(*7)。

 あとはとにかく、引用されてる過去映画ネタがわかるようになれたらイイだろうなあ…と。


挿入歌 Enna Pesa (どう言うべきなのか、ぼくは知らない)

*ロケ地は、五箇山その他の富山県。富山県側の観光客増加を狙う働きかけで実現した、インド映画ロケ誘致の成果!(…同年に実現した天皇のタミル訪問で、日本ブームが起きるかもと映画業界が先取りした結果か…とか深読みされてたりなんだりw)







「進めクマール!」を一言で斬る!
・サマンサの使いどころ、そこかよ!

2014.11.1.
2020.11.6.追記
2022.5.21.追記

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*1 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*2 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*3 タミル語娯楽映画界の俗称。製作拠点のチェンナイはコーダーンバーッカム+ハリウッドの合成語。
*4 ヒンディー語映画(=ボリウッド)では90年代の「ボンベイ to ナゴヤ(Aye Meri Bekhudi)」などが、ベンガル語映画(=トリウッド)では00年代に「妻は、遥か日本に(The Japanese Wife)」)が日本ロケしに来てはいる。
*5 ノンクレジットで端役出演もしてるそうな。
*6 本作では、親や親戚とかでなく兄弟姉妹の方になる。
*7 にしても、ノースリーブドレスのハンシカーは寒そうだ…。