インド映画夜話

Temper 2015年 147分
主演 NTR & カージャル・アグルワール
監督/脚本/台詞 プーリ・ジャガンナート
"高きを望め!"




 アーンドラ・プラデーシュ州最大の都市ヴィシャーカパトナムに住む孤児のダヤは、暴力と賄賂まみれの警察を間近に見て育ち「金儲けするなら警察が一番」と決意。長じて、敏腕ながら立派な汚職SI(警部補)となっていた。

 署内を牛耳るダヤは、地元ヴァイザーグ(=ヴィシャーカパトナムの略称)のマフィアボス ワールテイル・ヴァスの手下4人を勝手に釈放して礼金を受け取り、ヴァスと仲良くなって公私ともに友情を深めるも、新任のマジメな巡査部長ナラヤーナー・ムルティとは衝突ばかり。
 ある日、海岸で動物愛護団体員の美女サンヴィと知り合ったダヤは、女子大生失踪事件捜査もそこそこに彼女との距離を縮めて恋人同士になるが、サンヴィの誕生日のデート中、突如ヴァスの手下たちが彼女を誘拐し殺そうと迫る…!!


挿入歌 Temper (立ち上がれ!)


 タイトルは、英語でそのまま「憤怒」「気質」「(挑発に対する)沈着」の意。
 "テルグのヤングタイガー"ことNTR(ナンダムリ・タラーカ・ラーマ・ラオ Jr.)と、テルグのトップ女優カージャル・アグルワールと言う、日本公開作「バードシャー」の主演コンビによるポリスアクション・マサーラームービー。テルグ語(*1)映画界のヒットメーカー プーリ・ジャガンナート監督の27作目となる監督作である。大ヒットにともない、続編やリメイクのアナウンスあり。
 日本では、2015年にIndian Panaroma in JAPAN主催で英語字幕上映されている。

 前半は、賄賂のために働く不良警官の主人公、ダヤの経緯と活躍を描く「ダバング」的な痛快ポリスアクション(*2)。しかし、後半にはダヤとヴァスの対立によって明らかになってくる社会の腐敗…より具体的には女性蔑視と凄惨な性犯罪…を中心に、社会悪に立ち向かうダヤの社会正義への目覚めを描く、熱き成長物語へと昇華していく。
 腐敗しまくったインドの警察界や政界を皮肉りながら、決してニヒリズムのみに落ち入ることもなく、真っ正面から「正義」のなんたるかを語り、諭し、訴えるパワーは、まさにテルグ・マサーラーの真骨頂。ガンディー生誕祭も効果的に物語演出に取り入れて、社会正義にもとづく社会改革を謳う愛国映画の様相も呈して盛り上がるスキのなさ、サービス精神の過剰さ、220%以上の密度は、もう「さすが!」ですわ!

 あいかわらず白昼堂々誘拐やら殺人やらが起こりまくる世紀末都市のような劇中テルグ社会において、金と暴力を公的に執行できる警察の傍若無人さを見て「じゃあ、警察になればなんでもありじゃん!」と一発逆転を計画する発想もぶっ飛んでるけど、正義なるものを鼻で笑っていた悪漢気取りの警察が、正義に目覚めた途端の悪への容赦なさ具合もステキ。
 孤児が主人公のため、この手の映画によくある肉親関連の復讐劇と言う動機がない本作主人公ダヤは、際限ないリベンジムービーに足を踏み入れることなく、恋人への愛から社会的な正義への目覚めが自然かつ熱い展開になってるのも血湧き肉踊るってヤツで、ぶっ飛びアクションの数々も爽快の一言! …ま、あんな警察勢揃いのど真ん中でマフィアをぶっ殺しておとがめなしなんてあるの? とは思うけどもw

 歌舞伎的な決め台詞や強力な眼力もあいかわらずながら、ヒロイン サンヴィの扱いが軽かったり、名シーンは多いのにいまいち演技力がついていってないマジメな巡査部長ムルティの扱いとか、惜しい点も多い。登場人物の逡巡シーンに多出する手ぶれ画面がやたら多くて、油断すると酔ってしまいそうになるのは、まあ意図的なんだろうなあ…。
 巡査部長ムルティの愚直さがその堅い表情と動かない目に現れてる如く、やさぐれ警察ダヤを演じるNTRの取ってつけたようなふてぶてしさ、その饒舌さと目の輝き具合に、妙な可愛さが現れて来ているのも意図的な演出か、彼らのスター性故か。悪役ヴァス演じるプラカーシュ・ラージ共々、ドスの効いた悪役演技の慣れ具合の中にある、変にカッコカワいい魅力的オーラがさすがだわん。

 中盤以降に登場してヒロインの座を奪いかねない活躍をするラクシュミー役を演じるのは、1990年ムンバイ生まれの女優兼助監督のマドゥーリマー(・バナルジー 別名マドゥーリマー・ナーイル。またはニィーラ・バナルジー)。
 父親は、元私設造船所大手のマネージャーで海軍付エンジニア。母親は、ウイルス学者で多国籍企業のコンテンツライターを経て小説家になっている。
 幼少期から母についてガザルやカタックを学んでいて、大学にてLLB(*3)と学士号を取得。彼女の歌を聴いた映画監督G・V・アイヤルに推薦されて、映画出演の準備がされていたものの監督の死去によって企画自体が消滅してしまう。アルバイトでTV番組スタッフの仕事をこなしつつオーディション生活を開始して、そのうち映画監督プリヤダルシャンの目にとまって09年のヒンディー語映画「Toss: A Flip of Destiny」で映画デビュー。同年のテルグ語映画「Aa Okkadu」で主演デビューする。その後は両映画界で活躍しつつ、14年には「Savaari 2」でカンナダ語映画に、「Koothara」でマラヤーラム語映画に、本作と同じ15年には「Aambala」「Serndhu Polama(一緒に行こうよ)」の2本でタミル語映画にもデビューしている(*4)。
 翌16年には、ヒンディー語映画「One Night Stand」で初めて"ニィーラ・バナルジー"の名前で出演。「Azhar」では助監督を務めている。

挿入歌 Ittage Rechchipodam (オレたちと踊ろうゼ!!)

*Boys, This is the Item Song♪
 映画の1曲目を飾る、セクシー絢爛なアイテムソング(*5)だよー!!
 「オレたちのサニー・レーオーンだ」とか紹介されて踊ってるのは、モロッコ=カナダ人のダンサー兼モデル兼女優のノラ・ファテイ。13年のヒンディー語映画「Roar: Tigers of the Sundarbans」で映画デビューして、本作でテルグ語映画デビューとなる。


受賞歴
2016 Nandi Awards 助演男優賞(クリシュナ・ムラーリー・ポサーニー)


「Temper」を一言で斬る!
・テルグ人も、韓国映画やカンナムスタイル("ガンガームスタイル"とか字幕に書いてあったけどw)や犬食文化、北と南の区別を知ってるのネ…。

2018.8.3.

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*1 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*2 ま、「ダバング」の方が南インド映画のノリを取り入れた映画であるわけですが。
*3 法学の学位。
*4 これらと同じ年に公開されたタミル語映画「En Vazhi Thani Vazhi」にも出演予定だったものの、結局出演シーンはオールカットになったとか。



*5 セクシー系ダンサーがメインで踊る超ノリノリ・ハイテンポ・ダンス。主に宣伝の客寄せに用意されるミュージカルソングでもある。