インド映画夜話

Veer-Zaara 2004年 192分
主演 シャー・ルク・カーン & プリティー・ズィンダー & ラーニー・ムケルジー
監督/製作 ヤーシュ・チョープラー
"ヴィールとザーラ。…その名は、共に呼ばれてはならない"






 パキスタンのラホール(現地発音ではラホーレ?)に収監されているインド人"囚人786号"の所に、国内初の女性弁護士サーミヤー・スイディキーがやってきた。22年間も無言を貫く786号に彼女が「ヴィール・プラタープ・シン」と呼びかけると、彼は初めて声を発し、促されるまま自分の過去を語り始める…。

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 22年前。空軍パイロットのヴィールは遭難救助活動中に、パキスタンから来たザーラ・ハヤート・カーンに一目惚れする。彼女は、死に際にインド移民だと明かした祖母の遺言に従い、たった一人で祖母の故郷キリツプールまで遺灰をもって行く途中だと言う。
 ヴィールは、彼女に目的地までの案内を買って出て無事遺灰を納めさせると、「お礼がしたい」と言うザーラに思い切って「君の1日を僕にくれないだろうか」と提案。一目惚れした彼女を、自分の故郷まで案内することに…。



挿入歌 Lodi([ここは]ローリー祭)

*ローリー祭とは、1月13日に行なわれるシク教のお祭。秋に蒔いた麦などの種が無事に芽吹いて豊作になることを祝う。火をかこんで1年の幸福の総決算を行なうんだそうな。
 劇中では、ヴィールの叔父夫婦の提案で宗教に関係なく、村人全員参加のねるとん大会場になっている。


 タイトルは主役二人の名前「ヴィール=ザーラ」。
 シャイクスピアもかくやの、一大ロマンス大作であり、ヤシュラジュ・フィルム総帥のヤーシュ・チョープラーが久々に放つ大傑作!

 OPからして素晴らしい。
 美しい高原(…ロケ地はどこ?)を歩きながら自然の美しさと恋の美しさを歌い上げるシャールクと顔が見えない女性。やがて二人は歌の盛り上がりとともに、ロングのカメラアングルの中、花園の中で歩み寄って行って……突然の一発の銃声とともに、女性だけがゆっくりと崩れ落ちる。
 そこで夢から覚めるボロボロのシャールクのアップが入って、本編スタート。

 …ここからすでに悲恋であることは暗示されつつ、映画前半は、主役となるヴィールとザーラのラブロマンスが、ヴィールがサーミヤー弁護士に語る回想と言う形で描かれる。
 インターミッションを挟んで、パキスタンに帰ったザーラの視点で、その後に起こった悲劇が。さらに現代のヴィールの保釈裁判と真相究明に走る国内唯一の女性弁護士サーミヤーの活躍も、同時に描かれて行く。

 この映画をただのロマンスものにしてないのは、そこに描かれる人間模様のドラマ構造の複雑さで、印パ分離紛争も含めて、それぞれの登場人物が抱える恋愛・親子・宗教・社会問題などが多重的にヴィールとザーラの人生に映されて行っている。
 その拡大して行く悲恋の模様を「運命」「神の試し」「僕たちの物語」「この物語はまだ終わらない」などと表現する所も、メタ的なサービスだろうけど、イキだねぇ。

 ボリウッド作品の最大の特徴とはなにか?
 個人的には「歌と踊り」ではなく「上映時間の尺の長さ」なんじゃないかと思えてきた。
 普通でも3時間前後ある上映時間は(最近はだんだん短くなってきてるけど)、インドでの映画館の使い方にあわせた長さなんだろうけど、この長さだと、インドの物語文化で重要視されるらしい、物事の因果構造とか事件の前後関係をきっちり描くことが出来る。

 それによって、単純な恋人2人だけの狭い世界ではなく、それを取巻くその他大勢で成り立つ背景社会のリアリティや、時間の推移で変化する人生模様の妙などが、ラストに向けて多重的に合わさって、より大きな感動シーンに仕上げてくれる。
 それを一番表現出来るのが、過去と未来とが融合し、現実と妄想が混濁する感動の様を表現する、ミュージカルシーンと言うことなんだろう…な?(*1)
 このドラマツルギーの感動システムを体験すると、そうそう簡単には抜け出せない。この物語構造・映画構造こそ、インドで独自に発展した映画文法である! ……と思う(超弱気)。

 主役を演じる、ヴィール役のシャールク、ザーラ役のプリティー、サーミヤー役のラーニーはもう絶好調。
 その他、ザーラの母マリヤム役のキーロン・ケールは、もはや貫禄。ヴィールからザーラを取り返そうとやって来た時の仁王立ちの迫力のスゴさったら! 個人的には、本作の演技賞はキーロンにあげるぅぅぅー!
 シャボー役のディヴィヤー・ダッタも、もーお美しい。こんな使用人が我が家にも欲しいザマス。一気にファンになっちゃいそ。今後の期待大の一押し女優でっせ!
 ヴィールの育ての親役でアミターブ爺とヘーマ・マーリニーが特別出演。綺麗なおかんだなぁ…と思ってたら、往年のトップスター ヘーマさんだったのね…。動いてるヘーマさんは初めて見ましたわ。
 裁判シーンでは、サーミヤーと戦う検察側弁護人ザキール・アーメッド役に、名優アヌパム・ケールも出演(*2)。

 監督ヤーシュ・チョープラー自身が、パキスタンのラホール出身だそうで、印パ分離独立を体験して来た監督自身の記憶が、この映画を大作へと押上げる原動力となっているのかもしれない。原案・脚本・製作を担当した息子のアディティヤ・チョープラの手腕もかなり影響してるだろうけども。いつもの大味ロマンスのヤーシュ映画との違い"自己犠牲"がお話の核となっているのは、やっぱりアディティヤさんの手腕? ある意味で、イサクの献供物語なんかよりもハッキリと、宗教的自己犠牲の意義が伝わってくる映画ですわ。


挿入歌 Tere Liye(貴方のために)

*注意! 超ネタバレです。映画を楽しみにしてる人は再生しない方が吉。うん。



受賞歴
2004 Global Indian Film Awards 主演男優賞・助演女優賞(ディヴィヤー)・原案賞
2005 Filmfare Awards 作品賞・台詞賞・原案賞・作詞賞(Tere Liye)
2005 IIFAインド国際映画批評家協会賞 作品賞・監督賞・主演男優賞・助演女優賞(ラーニー)・音楽監督賞・原案賞
2005 National Film Awards 金蓮最優秀人気エンターテイメント賞
2005 Stardust Awards 年間女優スター賞(プリティ)・助演女優賞(キーロン)
2005 Star Screen Awards 作品賞・主演男優賞・原案賞・No.1カップル賞
2005 Zee Cine Awards 作品賞・監督賞・主演男優賞・助演女優賞(ディヴィヤー)
2005 Bollywood Movie Awards 作品賞・監督賞・主演男優賞・音楽監督賞・作詞賞・衣裳デザイン賞

2011.6.25.

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*1 本作の、最後のミュージカルシーン"Tere Liye"の映像なんかまさにこのための表現である!
*2 この人、実生活ではキーロンと結婚してたりする。