無職の大卒 (Velaiilla Pattadhari) 2014年 133分
主演 ダヌシュ(製作&配給&歌&作詞&アルバム製作も兼任) & アマラ・ポール
監督/脚本/撮影 ヴェルラージ
"未来は俺たちのものだ"
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土木工学部を卒業したラグヴァラン(通称ラグ)の朝は、父親の罵声から始まる。
大学を卒業しても、家業やコネのない一般人の彼には就職先もなく、4年間志望先の建設業界の就職面接に落ちまくり、無職のままIT企業勤めの弟カールティクの送迎と家事手伝いを繰り返す日々。
そんな中、隣に引っ越してきた歯科医の美女シャーリニと仲良くなるラグは、彼女の誕生日プレゼントを買うために急遽電話オペレーター職に就くも、家に給料全額を入れなかったことを咎められて母親に叩かれてショックを受ける。再び本来の志望先である建築業界への就職活動を再開するが、その日から母親と口を聞かないまま酒に逃げ続けるのだった…。
そんな彼を買い物に連れ出すシャーリニは、彼と家族を仲直りさせようとするものの、母親からの再三にわたる電話に出ないままのラグが家に帰ってみれば…!!
挿入歌 What a Karavad (なんてこった)
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略称「VIP」。
撮影監督出身の(R・)ヴェルラージの監督デビュー作となる、タミル語(*1)映画。
インド本国より1日早く米国で、インドと同日公開でオーストラリアでも一般公開されている。15年にはテルグ語(*2)吹替版「Raghuvaran B.Tech」が、18年にはカンナダ語(*3)リメイク作「Brihaspathi」が公開。
2017年には、主演兼製作のダヌシュの親戚(妻の妹)サウンダリヤー・ラジニカーントを監督に迎えた続編「Velaiilla Pattadhari 2(無職の大卒2)」も公開されている。
日本では、2020年のSpacebox主催のIMW(インディアン・ムービー・ウィーク)にて上映され、同年に IMO(インディアン ムービー オンライン)でも配信。翌2021年には、兵庫県の塚口サンサン劇場で開催されたIMWでも上映されたのち4日間限定上映も行われ、IMOからはDVDも発売。2024年のIMW、鹿児島のガーデンズシネマ「秋のインド映画特集」でも上映。
日本人としてもグサリとくるインパクト大なタイトルから分かる通り、13年の「キケンな誘拐(Soodhu Kavvum)」とかでも描かれる現代インドの社会問題の1つ「学校を卒業しても就職先がない」をテーマに、知識も技術もある優秀な人材が無職のまま腐らされていく前半、コネ社会の中で"持たざる者"を蹴落として踏ん反り返る"持てる者"たちに対して爽快に一発逆転を仕掛けて見返していく姿を描く後半と、テーマをひとひねりした2部構成の社会派マサーラー映画な1本。
「無職」であるがために自身の存在価値まで見失っていくかのような苦労を強いられる(*4)主人公の姿が、悲愴的でありながら微笑ましくもある。
英語を習得しているがためにエリートコースを進む弟やヒロインに引け目を感じつつ、それでも当初の志望先である建築エンジニアになることを諦めない主人公の頑なさ、なんだかんだ言って喧嘩に強く頭も良くて機転もきく無敵主人公な所もポイント。一昔前のマサーラームービーだったら、それだけでインド的ヒーロー街道まっしぐらだったかもしれないのに、「無職」という社会身分のそれが主人公からそんなヒーロー属性を全て剥ぎ取り、主人公や周りの人々のポジティブな価値観をも無効化させてしまう自身喪失具合がやたらリアル。まさに世の中の、能力があることを証明しながらも無職であることを強いられている人々の声を代弁するかのような内容が、身につまされるようでいて「そこまで言っちゃうんか」と爽快にも聞こえてくる弁舌ぶりがたまらない。
建設業界の羽振りの良さ、という点で見てる間に「マッキー(Eega)」「あなたの名前を呼べたなら(Sir)」あたりも頭をよぎったけども、後半に入って自分の設計と異なる建物にされそうになった主人公の抵抗する姿は、90年代日本アニメ「あしたへフリーキック」を想起してしまったワタス(*5)。
あの当時にして、アニメの中で「もしも、今までに起こったこともないような大地震が来た時、信じられないような津波が襲って来た時、そして嵐がきた時、このスタジアムだけは無傷で残る、そんなものを作りたいんです」というセリフが今やかなり重く響いてくる世の中になっちゃってるけど、似たようなことをこの映画でも聞くとは思わなんだ。インドも年々サイクロンだ洪水だ猛暑だと自然災害は激化の一途だしね…。願わくば、「あなたの名前を呼べたなら」の建築会社御曹司のような労働者目線を持った経営者が増えますように…(*6)。
恋愛パートもそこそこしっかり描きつつ、ダブルヒロインの扱いはそこまで重くない本作、やはり重要視されているのは親子関係であり、特に母親との関係の描き方はインドの右に出る者なしですわ! ってくらいしっかりエモーショナルに描いてくれて凄まじい。
基本全肯定する母親の期待を背負って立ち、時に甘々に甘え、時に母親側の気持ちも無視して反発し、時に軽口を叩いて笑い合う。そんな母子の日常の麗しさが、言わずとも通じる家族全員に共有される空間の幸福感の美しさよ。母親の面影を引き継いだセカンドヒロイン アニタを見る主人公の表情が、憂いに満ちているところも要チェック(*7)。
ヴェルラージ監督の次の監督作「Thanga Magan(黄金の息子)」でも踏襲される家族劇のあり方(*8)の構成の緻密さ・劇の美しさは、インド映画の武器であると同時にヴェルラージ監督作の武器ですわね。
このコロナ禍の世の中で、病院の病床占有率を行政が把握していないといえば市井のプログラマーがネットを介した病床の空き具合を瞬時に数値化するプログラムを作って公開したり、ワクチン接種会場の位置を地図上に瞬時に図解化させたりと、「世の中が動かないなら、自分で出来る事を最大限利用して事態に対処しよう」という姿勢が強く出てきたインド一般市民の優秀さ・器用さは、現実でもいろいろに発揮されている。
そんな話を聞いていれば、本作のような「優秀な無職が世の中を変える」お話も夢物語と言えない希望的未来を見せてくれているようにも感じられる。夢を夢のままにしないで、映画から受け取った夢を現実に変えていく強さとしたたかさを持つ人々が、世の中まだまだ埋もれたままかもしれないという視点は、ある意味で社会や自分自身を見失わないようにする1つの方便かもしれませんわ…。
大学卒業後、しばらく無職状態だった自分もそんな仲間に加われるよう精進しておかないとな…(*9)。
プロモ映像 Velaiilla Pattadhari (あいつは無職の大卒だ)
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受賞歴
2015 Ananda Vikatan Cinema Awards 主演男優賞(ダヌシュ)・助演女優賞(サランヤー・ポンヴァナン)
2015 Edison Awards 主演男優賞(ダヌシュ)・監督デビュー賞
2015 Filmfare Awards South タミル語映画主演男優賞(ダヌシュ)・タミル語映画音楽監督賞(アニルド・ラヴィチャンデル)
2015 SIIMA(South Indian International Movie Awards) タミル語映画主演男優賞(ダヌシュ)・タミル語映画助演女優賞(サランヤー・ポンヴァナン)・タミル語映画コメディアン賞(ヴィヴェーク)・タミル語映画監督デビュー賞・タミル語映画作詞賞(ダヌシュ / Amma Amma)・タミル語映画主演女優賞(アマラ・ポール)・人気タミル語歌曲賞(Velaiilla Pattadhari)
2015 Vijay Awards 作品賞・主演男優賞(ダヌシュ)・主演女優賞(アマラ・ポール)・音楽監督賞(アニルド・ラヴィチャンデル)・人気歌曲賞(Amma Amma)
2017 Tamil Nadu State Film Awaeds ダイアログライター賞(ヴェルラージ)
「無職の大卒」を一言で斬る!
・映画の助監督が、能力に見合わない仕事として出てくるのも珍し。まあ、色々大変な仕事でしょうしねえ…。
2021.8.13.
2024.6.2.追記
2024.9.20.追記
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