インド映画夜話

無職の大卒 ゼネコン対決編 (Velaiilla Pattadhari 2) 2017年 129分
主演 ダヌシュ(製作/原案/台詞/作詞/歌も兼任) & カージョル
監督/脚本 サウンダリヤー・ラジニカーント
"マダム、無職ってそれ自体が特別な才能なんですー"




 "VIP(無職の大卒)"ことラグヴァランが、スラム開発で大手建設会社に喧嘩をふっかけた騒動から1年半。
 ニューデリーにて開催された、国内建設業を讃えるADC賞(Architecture Design and Construction Awards=建設デザイン&建造物賞)にて、南インド最大手ワスンダラ建設が賞を独占していく中、最優秀建築技師賞をラグヴァランが獲得した!

 急成長中のワスンダラ建設社長ワスンダラ・パラメーシュワルは、早速最優秀建築技師の引き抜きを指示して、ラグヴァランを自分のオフィスに呼びつけてくる。しかし、今の仲間との起業を計画しているラグヴァランは彼女の引き抜き案を蹴ってしまう…。
 しばらく後、ワスンダラ建設と争って新病院建設案件を勝ち取ったラグヴァランたちが意気揚々と建設を開始しようとした所に、突如ワスンダラが現れて言い放つ…「ここは私たちが請け負うことになった。我々が献金している政治家の指示においてね。経営には必要なのよ…政治ゲームがね」!!
 その翌日から、ラグヴァランの勤めるアニタ建設の顧客たちが次々と契約破棄を通告。アニタ建設社長ラームクマールは、それら案件を全て持っていったワスンダラに直談判すると彼女は断言する…「標的はあなたじゃなくラグヴァランよ。あなたには2つの道がある…彼が私に従い我が社で働くよう説得するか、もしくは彼を追放するか」!!


挿入歌 Life of Raghuvaran ― Nada Da Raja (ラグヴァランの生き様ー王よ進め)


 2014年の「無職の大卒(Velaiilla Pattadhari)」の直接の続編登場! 略称「VIP 2」。

 タミル語(*1)映画界のスーパースター ラジニカーントの娘でもあるサウンダリヤー・ラジニカーントが監督を務め、ヒンディー語(*2)映画界で活躍している大女優カージョル(*3)が主演にキャスティングされたことでも話題に。

 タミル語版とテルグ語(*4)版が同時製作され(*5)、後にヒンディー語吹替版「VIP 2」も公開。インド本国と同日公開でオーストラリア、デンマーク、ニュージーランド、シンガポールでも公開されたよう。
 日本では、2021年のIMW2021 パート3にて上映。翌2022年には、DVD発売された他、新潟県高田市の映画館 高田世界館主催の"インド映画を愛でる上映会"にて、1日限定上映されている。

 前作VIPで、大手建築会社御曹司をボコボコにやり返した一般庶民代表の主人公ラグヴァランが、再び無職の身に落とされ、より巨大な建築業界の大物と対決していく本作。
 前作の物語構成を踏襲しつつ、物語そのものは前作から直接繋がっていて、決めるところは決め茶化すところは徹底的に茶化す、十分な技術も知識もあるのにも関わらず世間の仕組み故に不遇を強いられる庶民の一発逆転をこれでもかと爽快に描いていくのは、前作から受け継がれる映画構成。
 どちらかと言うと、前作にあったマサーラーアクション風味は影を潜め、その分話芸コメディ色が前半を中心に強まってる感じ。そのため、政界と通じる建築業界の腐敗具合もカリカチュア的な笑いに取り込まれて「救いのなさ」具合は薄められつつも社会派メッセージそのものはきっちり発信し続けるようなスタイルになっている。わかりやすさ優先のため? …なのかねえ。無理にアクションで解決させずに主人公のヒーロー性を「どんな状況や相手であっても、諦めない精神的強さ」に比重を置いて描くのは「えらい!」とその作劇上の駆け引きに注目してしまいそう(*6)。

 監督を務めたサウンダリヤー・ラジニカーント(生誕名シャク・バーイ・ラーオ・ガイクワド)は、1984年タミル・ナードゥ州マドラス(現チェンナイ)生まれ。
 父親はタミルのスーパースター ラジニカーント(本名シヴァージー・ラーオ・ガイクワド)。母親は映画プロデューサー兼歌手のラータ・ラジニカーント(生誕名ラータ・ランガチャリ・アイアンガール)。姉に映画監督兼歌手のアイシュワリヤー・ラジニカーントがいて、姉と結婚した本作主演兼脚本兼歌担当のダヌシュは義兄になる間柄。
 99年の父親主演作タミル語映画「パダヤッパ(Padayappa)」にてタイトルスケッチを担当して映画界入り。その後も父親主演作を中心にタミル語映画界でグラフィックデザイナーとして活動し、08年の父親出演作「Kuselan(*7)」の挿入歌で特別出演。10年の「Goa(ゴア)」でプロデューサデビューする。「Goa」の製作スタジオでサウンダリヤー自身が社長を務める映画会社オーカル・スタジオがワーナー・ブロスと提携して企画したアニメ映画「Sultan: The Warrior」の監督に就任する予定が、諸事情で企画が迷走。2014年に、インド初の完全モーションキャプチャ映画「Kochadaiiyaan(鬣の王)」に改題されて公開され監督デビューとなり、NDTVインディアン・オブ・ジ・イヤーのテクニカル・イノベーション映画賞を獲得している。本作はこれに続く2本目の監督作。

 前作ヒロイン シャーリニ演じるアマラ・ポールも同じ役で出演しているけれども、出番は前半の夫婦漫才的コメディに集中してる感じで、歯科医の仕事も辞めてラグヴァラン家の主婦として家族を統率している口うるさい存在として出てくるのが「あれだけ色々あったのに、それでいいのか!」って感じではある……けどまあ、本作の顔であり悪役主演のカージョル演じるワスンダラとの差別化のための扱いだった、のかなあ。この辺は消化不良と言うか、マサーラー映画としての体裁を整えようとしたしわ寄せって感じもしなくはない。ま、ラストの家族団欒の姿や亡きラグヴァランの母親関連のコントへの段取りとしては綺麗に機能してる役どころだったけど。
 ワスンダラ演じるカージョルは、さすがの大物オーラを発揮しまくり続け、その存在感でカリカチュア的なセレブ悪役を好演。啖呵の切り方も主人公ラグヴァランに対抗する凄みをしっかり持っていてカッコ良きかな。悲しい過去を匂わせる台詞の数々はあれど、回想シーンのようなものはないままに、権力と金に頼った攻撃で無職の大卒たちを切り捨てていく冷酷なビジネスウーマンっぷりを厚みのある演技で魅せていくパワーはさすが。

 前作のような、怒りを貯めに貯めた後に爆発する庶民パワーを見せつけるアクションシーンは本作ではスルッと省かれ(*8)、悪役セレブと庶民代表の一晩の語り合いによる「共感」を解決の一歩として描いてるのは新し…い?
 一代では到底埋まらないほどの貧富の差・衣食住の違いを眼の前にして、今まで倒すべき敵であった富裕層の横暴に対して上昇志向と対等意識のもとの度胸を持って向かえば暴力のない歩み寄りは可能と描くそれが、理想的かご都合的かは議論の分かれる部分ではあろうけど、カージョルという大女優を悪役として起用できる、と言う映画の都合がアクションのあり方を変えて「暴力否定」でも成り上がれるインドの理想を描くことになった、と見ることも可能かもしれない。ワスンダラの過去も色々あったんだねえ…って所はもう少し見せて欲しかった気はするんですが。

 なにはなくとも、主演ダヌシュ原案&ダヌシュの義妹が監督&脚本すると言うダヌシュ・ファミリー映画にありがちな救いのない焼け野原映画にならなくてえがった…。この映画のテーマでそれをやったら、マジでこの世は地獄にしかならんもんね…。

プロモ映像 Raghuvaran Vs Vasundhara ― Dooram Nillu (ラグヴァランVSヴァスンダラーあっち行け)



「無職の大卒 ゼネコン対決編」を一言で斬る!
・抗議の座り込みを取り締まりに来た警察が、『大卒だ』と聞いて厄介だと手を引くほど、大卒って身分は威力あるの…?

2022.9.23.

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*1 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*2 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*3 タミル語映画出演は、97年の「Minsara Kanavu(刺激的な夢)」に続くこれが2本目。
*4 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*5 テルグ版は数日遅れで公開。
*6 その分、話がやや強引に軌道修正されてる感じも匂うけど。
*7 同時製作テルグ語版タイトル「Kathanayakudu」も。
*8 ないことはない。レンガが武器ってイイヨネ!