インド映画夜話

ヴィクラムとヴェーダ (Vikram Vedha) 2022年 151分(150分とも)
主演 リティック・ローシャン & サイーフ・アリ・カーン
監督/脚本 プシュカール=ガヤトリー
"“諺に曰く。真実は常に正しく、虚偽は常に不実なり。白黒は常に明白"
"…しかし、この物語において、それらは共に不実である"




 昔々…偉大なる王ヴィクラマーディティヤが治める王国があった。
 しかし、その頃の世界は悪が蔓延り、王を悩まし続ける。そんなある日、老人が王の前に現れ「王ご自身が悪魔を退治しに旅立たれるべきである」と諭したことで、王は悪魔退治の旅に出た。数々の苦難の後、王はついに悪魔の元へと辿り着いたが、悪魔は王にある物語を語るのだった……

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 ヴィクラム警部率いる捜査チームは、その日地元ラクノウの密売グループの1支部を壊滅させた。命乞いする非武装のメンバーをも殺し、警察の正当防衛を主張するために了承の上で部下を銃撃して、武装集団の抵抗として処理してしまう。ギャングメンバーの子供達の恨みを買おうとも、ヴィクラムの信じる正義は揺るがない。
 そんなある日、長年追跡してきた密売グループの頭目ヴェーダの居場所がついに判明。
 警察が、ヴィクラムを中心にした突入隊を編成してヴェーダの潜伏先に出発しようとした矢先、そのヴェーダ本人が警察署に現れ自首してきたのだった…!!

 そのままあらゆる尋問に沈黙を守るヴェーダだったが、ヴィクラムが尋問官の席についた途端「警部殿、話を聞いてください」と突如切り出してくる……「貴方と私は全く同じ人間です。…お互いのためにもね。私は貴方と話をしに来たんです。重要な話を…」
 ヴェーダが語り出したのは、若き日を過ごしたカーンプルで体験したギャング抗争の思い出。その中で起きたヴェーダの弟シャタクに関する報復事件を語りながらヴェーダは問いかける…「さあ答えてください…今の話で、誰を罰するのがよかったのでしょうか?」
 それに対するヴィクラムが答え示した時、ヴェーダー保釈のための弁護士…ヴィクラムの妻プリヤー…が尋問室にやって来ていた…。


挿入歌 Alcoholia


 タイトルは、主要登場人物2人の名前。
 2017年のタミル語(*1)映画「ヴィクラムとヴェーダー(Vikram Vedha)」の、監督自身によるヒンディー語(*2)リメイク作。
 物事の善悪の境界の曖昧さをテーマとするノワール映画。その物語は、インドの古典説話集「屍鬼二十五話」を翻案したものとなる。

 インド本国より1日早くアラブ、英国で公開が始まり、インドと同日公開でカナダ、ドイツ、フランス、インドネシア、ロシア、シンガポール、南アフリカでも一般公開されたよう。
 日本では、2023年のインド大映画祭(IDE)にて上映されて、同年に一般公開。2024年には、兵庫県の塚口サンサン劇場の2週間限定上映作、鹿児島県のガーデンズシネマのリメイク特集上映にも選ばれている。

 基本的には、オリジナル版と同じ物語・作りになってる映画だけど、オリジナルよりも白・黒・灰色の色彩・光量調節が徹底していて、白黒映画ではないけどもある程度重要なシーンでは抑えた色彩世界の中で、善=白と悪=黒がどんどん混じり合う灰色世界を構築していっている。
 アイディア元である「屍鬼二十五話」にある、説話ごとに問いかけられる悪側からの質問と、それに正当な答えを返して聖性を見せつける善側という構図の元、ヴィクラムとヴェーダの人生上における問題とその解決法の問いかけに対して、2人が抱える正義の有り様が同じ答え、同じ解決方法、同じ人生哲学を基づくものとして現れていき、善も悪も表裏一体であり、その現れ方が違うだけである灰色世界の皮肉を見せつけていく。

 最初、リティック&サイーフ主演と聞いて「リティックが善側で、サイーフが悪側のキャスティングか」と勝手に思ってたもんだから(*3)、蓋を開けてみたら真逆のキャスティングでヒゲを整えて正義を謳うサイーフと、ボサ髮&ボサ髭でギャングスターを演じるリティックって絵面の強烈さに「ああ、コレはコレで有り!」と圧倒されてしまう自分もいる。
 オリジナル版のマーダヴァン&セートゥパティの持つふてぶてしさ、捉えどころのなさとはまた違う方向でスタイリッシュさを加味しつつ、ダーティーでダークな世界観を強調する耽美な絵面を目指しているかのようでもある。どっちが好みかは、もうその人によるというところでしょうか(*4)。
 主人公がリティック&サイーフになったからか、ヒンディー圏のビジネス事情からかよりマッチョ度は上がっていて、いちいち歌舞いたポーズを取りたがるサイーフ演じるヴィクラムの脇が閉まらない胸筋と腕の筋肉の重々しさは、映画全体のアクションの流れも重々しく重厚なものに統一しているかのよう。サイーフよりも軽やかな動きをしているリティックは、この役作りのために体重を落として細い身体を作って来たと言うのもあって、ヴィクラム率いる警察世界との対比として貧困と隣り合わせの庶民世界のやさぐれたオーラを全体から醸し出しておりましたわ。その辺でも、色彩以外で善悪構図の対比、警察たち権力側とギャングたちの庶民側の生活文化の違いを表現しているよう。

 2017年の「タイガー 蘇る伝説のスパイ(Tiger Zinda Hai)」で使われたアブダビのセットを流用して撮られたと言う本作のラクノウ&カーンプル市街の雑然とした雰囲気は、元の街を知らないからってのもあるけど、なんの違和感もなく本作の善悪対比世界の中に溶け込んだ寓話的世界を生み出している。そこに組み込まれている無数の人の暮らしの色彩が、ヴィクラムとヴェーダの同調と対立の中でそれぞれに混濁し、ヴィクラムの正義と信じる行為がヴェーダがやって来た悪の所業とシンクロしていく様を、無彩色・有彩色の画面の中で表現していく様は常に刺激的。暗い建物内を走り回る白い服の警察の所業や、太陽の光に照らされる川面の反射の中を突き進む黒い服のギャングリーダーの制裁の姿に、正義と悪を問うナンセンスさ、表裏一体の構造に気づかない人々の所在なさが同時に付いて回る皮肉。
 世の中、信用できるものは自分の中にすらないもんですねえ。いわんや、他人の心の内なんてそうそう簡単にはね…。



プロモ映像 Bande




受賞歴
2023 Filmfare Awards アクション賞(パルヴェーズ・シェイクー)
2023 IIFA (Awards of the International Indian Film Academy) 主演男優賞(リティック・ローシャン)・BGM賞(サム・C・S)
2023 Bollywood Journalist Awards 主演男優賞(リティック・ローシャン)


「ヴィクラムとヴェーダ」を一言で斬る!
・それでは、観客の皆様にお尋ねします。……オリジナル版とヒンディーリメイク版、貴方が好きなのはどっち?

2024.12.28.

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*1 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。スリランカとシンガポールの公用語の1つでもある。
*2 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。フィジーの公用語の1つもである。
*3 本作の翌年公開作「Adipurush(始まりの人)」で羅刹王演じていたサイーフだし!
*4 でも、ヒンディー版は予想に反してそこまで売り上げを伸ばさなかったと言うことだけども。…こんなに面白いのにぃ。