Varsham 2004年 165分
主演 プラバース & トリシャー
監督 ソーバーン
"雨が好きみたいだね"
"雨は、私の一番の友達だもの"
"その通りだ! 僕と出会った時も雨だったね!!"
挿入歌 Nuvvosthanante (あなたが来るのなら [私に止めることなんてできるの?])
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*この翌年公開のトリシャー主演作「Nuvvostanante Nenoddantana(あなたが来たいと言うなら、私にイヤと言える?)」のタイトルの元ネタかしらん?
「ボス、女の居場所がわかりました」
その夜、映画撮影帰りの女優の卵シャイラージャー(通称シャイルー)は、父母の目の前でテランガーナー地方の支配者バドリの手下たちに誘拐されてしまった!
警察はおろか内務大臣すら関わろうとしないこの事件に対して、シャイルーの父親の遊び人コーラ・ランガ・ラーオは最後の望みとして砕石場で働くヴェンカトに娘の救出を託す。彼は、心臓発作で入院した叔父の治療費を必要としてた上、かつてシャイルーに誓いをたてたあの雨の日から、愛する彼女を見殺しにはできないはずなのだから…。
そのヴェンカトは、シャイルーのことを聞いて複雑な顔をするものの、すぐに救出に向かう中で突如降り出した雨に、彼女と最初に出会った同じ雨の日を思い出していた…。
挿入歌 Nizam Pori (ニザームの女の子は [我が姫様さ])
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*ニザームとは、ハイデラバードを中心としたその周辺の人口密集地域のこと、らしい。
かつてムガル帝国内で使用された称号"ニザームル・ムルク(皇帝の代理人)"に由来する、1724年独立のハイデラバードを中心としたイスラム王朝ニザーム王国(別名アーサフ・ジャーヒー朝)があった地域のこと。王国時代の領土はデカン高原中央部に広くまたがり、その王家は巨万の富を有し、イギリス植民地時代には最大面積を誇る藩王国となった。インド独立後最後まで存在したイスラム王朝でもある(1948年9月13日にインド併合)。
タイトルは、テルグ語(*1)で「雨」の意。
後に、タミル語(*2)リメイク作「Mazhai(雨)」、オリヤー語(*3)リメイク「Barsa My Darling」、ヒンディー語(*4)吹替版「Baarish-The season of love」とリメイク作「Baaghi(反逆者)」も公開された。
日本では、2023年にindo_eiga主催の自主上映で上映。
各映画賞を獲得しまくったプラバース&トリシャー主演の傑作映画、と言うことで見てみましたけども、今見ると、まあ期待の大型新人の主演2人の魅力を存分に引き出そうとするマサーラー映画の定番で作られた映画であると同時に、インド人のツボを刺激する「雨」「雨季」の叙情感とド直球な「ラーマーヤナ構造」を物語にぶち込んだ爆走映画でありますな。
最初、プラバース演じる主人公が採石場で働く描写に「KOYLA ~愛と復讐の炎~(Koyla)」みたいだなあ…と勝手なこと思いながら見てたけど、まあ、その後の展開は似ていなくもなくも…いや、似てないか。うん。
タイトルにもある「雨」は、テルグ語映画に限らずインド映画全般で効果的な心象表現やモチーフとして多用される気象現象で、古代からの詩歌の伝統から繰り返し表現される「幸福感」「高揚感」「物事の変化の兆し」などを象徴するものでもある(*5)。
劇中、主人公とヒロインの出会いや恋愛劇の進展度合いが変化するたびにスコールのような雨が降り始め、同じように悪役とヒロインの出会いや主人公との対立にもそうした雨(*6)が配されているのも、インド伝統の詩的表現世界の伝統を継承する演出技法でもある…んだよね?
多少(いやかなり)強引な主役2人の恋の始まりや、悪役との最終決着が、そうした古来から続くインド的わびさび感覚を下地にしてると思えれば、その強引展開も納得でき…るかなあどうかなあ。悪役が丁寧にラーマーヤナ構造を踏襲したり、躍起になってその物語構造を破壊しようとする様はなかなかに刺激的な展開でありましたけども。
まあ、なにはともあれ、これがテルグ語映画2本目の出演作となるトリシャーの可愛さ全開なのは超必見ですよ(*7)。雨の中のミュージカルのために8日間連続で雨に降られ続けて「もう雨の中での演技はやらない」と根を上げるほど苦労したそうですけど(*8)。
本作は、ソーバーン監督の2作目の監督作。
1989年にチェンナイに上京して映画界に加わり、当初は超短期間の映画製作を請け負うことから"ラウディズム(乱暴主義)"と呼ばれていたとか。数々の映画の助監督や台本を務める中で人脈や技術を広げて行き、00年のマラヤーラム語(*9)TVシリーズ「Navaneetha」の監督に就任。02年に助監督の仕事を通して知り合っていたマヘーシュ・バーブを主演に迎えた「Bobby(ボビー)」で劇場作の監督デビューとなり、「Oka Raju Oka Rani(王様と女王様1人)」などの端役出演を挟んで、2作目の監督作となる本作、同年公開の3作目の監督作「Chanti(チャンティ)」を公開させている。
その他数々のヒット作の台本制作を手がけていたものの、08年に女優ブーミカー・チャウラー宅を訪れていた時に心停止で倒れて救急搬送されたまま物故されてしまう。享年40歳。
雨に話しかけながら主人公へ本音を吐露する、って二重的なヒロインの啖呵シーンが非常に効果的で、雨という「心を浮き立たせるモチーフ」を物語的にも画面的にもわかりやすく・劇的に描いて行く名シーンがとても印象的。後の「ジャスミンの花咲く家(Seethamma Vakitlo Sirimalle Chettu)」でも似たようなシーンがあったけども、これが元ネタなのか、もともとそう言う発想がインドに普遍的に存在するものなのか…?
ラストミュージカルと、ラストアクションの舞台に使われているお祭り(*10)も色々と意味深。
あそこ見てて思うのは、祭の楽団が鳴らすドラムの音ってのは雷鳴に仮託した雨を呼び寄せる祝祭に必須な要素でもあるんかねえ、みたいなことだったり。そして、その血みどろな対決の後ろで普通に営業してる回転ブランコ&吠える象と言うインド文化的モチーフの「さあ読み解いて見てね!」感の素晴らしさよ!
挿入歌 Joole Joole (ジョレ・ジョレ)
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受賞歴
2004 Nandi Awards テルグ語映画女性プレイバックシンガー賞(K・S・チトラ / Nuvvosthanante)・振付賞(プラーブデーヴァ)・音響賞(マドゥースダン・レッディ)
2004 Filmfare Awards South 作品賞・主演女優賞(トリシャー)・音楽監督賞(デヴィ・スリー・プラサード)・女性プレイバックシンガー賞(K・S・チトラ / Nuvvosthanante)・撮影賞(S・ゴーパル・レッディ)
2004 Santosham Film Awards 作品賞・主演女優賞(トリシャー)・若手パフォーマー賞(プラバース)・音楽監督賞(デヴィ・スリー・プラサード)・女性プレイバックシンガー賞(K・S・チトラ / Nuvvosthanante)・作詞賞(シリヴェンネラ・シーターラーマ・サストリー)・撮影賞(S・ゴーパル・レッディ)・振付賞(プラーブデーヴァ)・脚本賞(M・S・ラージュー)・台詞賞(パルチュリー・ブラザーズ)
2005 CineMAA Awards 作品賞・驚異的ヒーロー賞(プラバース)・主演女優賞(トリシャー)・悪役賞(ゴーピチャンド)・振付賞(プラーブデーヴァ)・音楽監督賞(デヴィ・スリー・プラサード)・撮影賞(S・ゴーパル・レッディ)
「Varsham」を一言で斬る!
・いつもは鉈や斧振り回すテルグ・マサーラーが、銃に持ち替えただけでなんとも西部劇なニホヒ…。
2018.6.22.
2023.1.15.追記
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