インド映画夜話

Vikramarkudu 2006年 161分
主演 ラヴィ・テージャ & アヌーシュカ・シェッティ
監督/脚本 S・S・ラージャマウリ
"オレは死を恐れるまぬけか? …否! オレはヴィクラム・ラトール。死がオレを恐れるのだ!!"



挿入歌 Dammare Damma (ダンマレ・ダンマ)

*だまれ、だまだま だまだま だんだん♪


 ある夜、ハイデラバードの病院で泣いている少女ネーハを見た男が、その病室を覗き込み、驚愕して即座にボス バブジーに連絡する…「あのヴィクラム・シン・ラトールはまだ生きている!! なんとかしないと、オレ達が危ない!!」

 その翌日。子供嫌いな泥棒アティリ・サティバブーと相棒ドゥッヴァ・アッブルは、仕事のためにハイデラバードのとある結婚式に潜り込んでいた。しかし、その結婚式の手伝いに来ていたニーラジャー・ゴースワーミー(通称ニールゥ)と以前に知り合っていたサティバブーは、彼女とばったり再会した事でお互いを意識し始め、ついには両思いの仲になってしまう! 自分がこそ泥である事を正直に打ち明けるサティバブーは、ニールゥのために泥棒稼業を辞めて真っ当な仕事に就く事を約束。その影で、そんなサティバブーを見て脱兎の如く逃げ出すチンピラが一人…。

 泥棒稼業からおさらばする最後の仕事にと、サティバブーとドゥッバは偶然金持ちそうな女性から預かった巨大トランクをさっさと持ち逃げするが、中に入っていたのはぐっすりと寝ている女の子! この現場を警察官に見られて「誘拐か!」と騒がれてしまった所、慌てる2人を尻目に目を覚ました女の子は、初対面のはずのサティバブーに抱きついて呼びかけるのだった…「パパ、おはよう!!」


挿入歌 College Papala (女子大生のバスは)



 タイトルは、様々な伝説で語られる古代インドの王ヴィクラマーディティヤ(*1)のテルグ語(*2)形の名前とか。
 伝説ではウッジャイン(*3)を統治し、サカ族の侵入を撃退した事を記念してヴィクラマ紀元を制定した等、様々な英雄譚が語られる王のこと。その在位期間について神話時代とか紀元前1世紀頃とか、9世紀の人物とか様々に言われる、複数の顔をもつ王でもある(*4)。

 ラージャマウリ監督の5作目となる大ヒットテルグ語アクション・マサーラームービー。
 公開後、マラヤーラム語(*5)吹替版「Vikramathithya」、ヒンディー語(*6)吹替版「Pratighat」、ボージュプリー語(*7)吹替版「Vikram Singh Rathod IPS」も公開された。
 さらに、2007年にはバングラデシュ映画リメイク「Ulta Palta 69」、09年にカンナダ語(*8)映画リメイク「Veera Madakari」、11年にはタミル語(*9)映画リメイク「Siruthai(豹)」、12年にはベンガル語(*10)映画リメイク「Bikram Singha(獅子のビクラム)」と、ヒンディー語映画リメイク「Rowdy Rathore(暴れん坊ラトール)」が、15年にはさらなるバングラデシュ映画リメイク「Action Jasmine(アクション・ジャスミン)」が作られると言う、まさにインド(+バングラデシュ)全土で人気を博した傑作映画!!

 ファンタジー系な仕掛けの多いラージャマウリ映画にして、こんなド直球マサーラー映画もあったのねえって感じのインド・エンタメの基本を押さえたトリウッド(*11)作品ながら、複数の顔をもつ伝説上の王名をタイトルに使って、主役ラヴィ・テージャーに「しがない庶民のこそ泥」と「社会を革新させる真なるヒーロー」と言う、裏表関係になる正反対のキャラクターを十二分に演じさせる所に、ラージャマウリ流な作劇法が見え…る?

 映画前半は、よくあるマサーラー文法よろしくバイタリティあふれる庶民たちのドタバタ喜劇を中心に、突如恋に落ちる主人公とヒロインのロマンス、チンピラたちとのおいかけっこ、見知らぬ女の子とのドタバタ疑似家族ごっこと畳み掛けるように進んで行く。しかし、インターバル直前の爆走アクションから、それまで伏線と感じられなかった要素までも伏線として機能しはじめ、物語に隠されていた真実が暴露されてから始めるラヴィ・テージャーのヒーロー性を存分に魅せつけるパワフル・アクションの数々に、映画の全ての魅力が持ってかれてしまいますわ。最初ただのおっさんにしか見えなかったラヴィが、映画見終わる頃にはカッコよく見えてくるんだからオソロしや!!

 そのラヴィ・テージャー(生誕名ラヴィ・シャンカル・ラージュー・ブーパティラージュー)は、1968年アーンドラ・プラデーシュ州東ゴーダヴァリ県ジャガンペータ村の薬剤師の家生まれ。弟に、同じく俳優のバーラト・ラージューとラグー・ラージューがいる。
 少年時代は、父の仕事に付いてジャイプールやデリーなど北インドで生活した後、アーンドラ・プラデーシュ州ビジャヤワダの公立学校から大学に進学して美術を修了。88年に俳優を目指してチェンナイに移住して映画界入りする。
 後に映画監督兼プロデューサーになるYVS・チョウダリー(*12)やグナ・シェーカル(*13)とルームメイトになりながら助監督として働きつつ、90年のテルグ語映画「Karthavyam」にノンクレジット出演して俳優デビュー。その後、端役出演や助監督として映画界・TV界双方で働きながら「Aaj Ka Goonda Raj」などヒンディー語業界でも仕事をこなしていたそう。
 97年、仕事仲間となっていたクリシュナ・ヴァムシ監督作「Sindhooram」でついに主演デビューを果たし、02年には同じクリシュナ監督による主演作「Khadgam(短剣)」でナンディ・アワード批評家選出主演男優賞を獲得。以降、主演男優として数々の映画で大活躍していく。自身の代表作の1つに数えられる本作公開の06年には、他に「Shock」「Khatarnak」の2本にも主演している。
 映画界での肩書きは"マス・マハラージャ"とか"アーンドラ・アミターブ"。本作劇中、ヒロインヘのセクシーアピールのような扱いでその濃いい胸毛と腕毛、濃い顔をさらに濃くするぶっとい口髭にフォーカスするアングルやヒロインが手をからめるシーンがあるけども…セクシー…なの?

 ヒーロー役のヴィクラムを演じるラヴィは、まさに若き日のアミターブ演じる"怒れる若者"的な精悍さ。そのヴィクラムが泥まみれ血まみれに敗北して行くイメージと、下町気風そのままに口からでまかせで障害を乗り切る飄々とした三枚目のサティバブーのイメージの対比が、後半にだんだん一体化していきながら悪をぶっ倒すヒーロー像へと昇華すると言う、パターン通りながらカッコいいシークエンスとなってるわけだけど、それと並行して、悪に支配されていた街の改革そのものはその住民たち…特に虐げられていた女性…によって行なわれる所なんかは色々と示唆的。
 特別なヒーローが出現しなくとも、人間一人一人が"ヴィクラマーディティヤ"のような英雄になる事が出来ればいいのにねえ…と言う「あるいは、それも可能かもしれない」と思わせてくれるパワーこそが、この映画の魅力、かもしれない。


挿入歌 Jum Jum Maya (ジュンジュン・マヤ)







「Vikramarkudu」を一言で斬る!
・しがない泥棒でも、バラバラに壊されたテープレコーダーをすぐに修理できるインドのエンジニアレベルって…

2017.1.14.

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*1 "勇猛なる太陽"の意。
*2 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*3 現マディア・プラデーシュ州ウッジャイン県ウッジャイン市。古代より発達した中部インドの都市の1つ。
*4 おそらく"ヴィクラマーディティヤ"は個人名ではなく、称号名だったのでは、と言う説が有力視されている。
*5 南インド ケーララ州の公用語。
*6 インドの連邦公用語。
*7 北インド ビハール州周辺域で使用される言語。
*8 南インド カルナータカ州の公用語。
*9 南インド タミルナードゥー州の公用語。
*10 西ベンガル州とトリプラ州の公用語。
*11 テルグ+ハリウッドで、テルグ語娯楽映画の俗称。
*12 本作のイベントでもラヴィと共に招待参加していたそうな。
*13 後の「バブーをさがせ!(Choodalani Vundi)」の監督。