インド映画夜話

若者の国 (Youngistaan) 2014年 133分
主演 ジャッキー・バグナーニー & ネーハー・シャルマー
監督/脚本/原案/台詞 サイード・アフマド・アフザル
"三千年の知識を持つ最古の文明と、熱き希望を抱く最年少の国家が、手を取り合う時が来ました"
"私は約束します。この国は正しい場所を見つけるでしょう"
"この…若き国家を信じるかぎり!!"




 東京のゲーム会社に勤める28才のアビー(本名アビマニュ・カウル)は、恋人アンヴィ(本名アンヴィター・チャウハン)と同僚のアジャイ・ドーシに囲まれて毎日を遊び暮らしていた。

 そんなある日、1本の電話から彼の生活は一変する。
 米国フロリダ州オーランドに呼び出されたアビーは、そこで久しぶりの再会となる父親が病死寸前であると知らされる。インド首相である父ダシャラート・カウルの死に際の遺言を受けて、父の死を嘆くヒマもなしにアビーは党幹部の推薦により、父の後を継ぐ新首相にならなくてはいけない事に…!!
 あまりの状況の変化にアビーが戸惑っている中、彼と会えない日々が続くアンヴィも「新首相の恋人」のために24時間警護体制下に入れられ、行動の自由を失い生活が一変。2人の関係は徐々に…。


プロモ映像 Tanki (我らウワバミ)

*ハロウィンの夜の都心に繰り出して遊ぶインド人の図。
 日本のゲームクリエイターって儲かってるんだねえ…w


 タイトルは、「若い」の英語Young+「国」とか「地方」を意味するペルシア語由来のStaan(*1)を組み合わせた造語。
 本作以前にインドのペプシ広告の標語に使われていたコピーだった事から、本作タイトル発表後に無断使用であるとしてペプシから訴えられていたそう(*2)。

 サイード・アフマド・アフザルの監督デビュー作となる、ポリティカル・ロマンス・ヒンディー語(*3)映画。
 有名な映画プロデューサー ヴァーシュ・バグナーニーの息子である、ジャッキー・バグナーニー5本目の出演作。…と言う事はおいといて、日本的には久しぶりの日本ロケ(*4)を敢行したボリウッド(*5)映画として有名。
 日本では、2017年に日本語字幕版がNetflixにて配信。

 インドの他、クウェートやロシアでも公開されたものの、そこまで話題となる事なく批評家からの評価も低いながら、続編「Youngistaan dobara(続・若者の国)」の製作がアナウンスされている。

 パッと見た感じは、「ああ、これはハリウッドとか日本で映画化するなら、たぶんヒロイン側を主人公にして話を転がしていくロマンス映画になりそうだなあ」って感じ。
 タイトルの通り、過去の政治勢力や政治スタイルにこだわらない新世代政治家となってしまった若者が、前例のない政治改革を押し進める話ではあるんだけど、恋愛を主題に持ってきている事で微妙に映画の方向性がぶれてしまっているように見えてしまう。主役ジャッキー・バグナーニーを売り込むための映画とは言え、それにこだわったために全登場人物の印象が軽くなってしまった感じ。

 その主役アビマニュ役のジャッキー・バグナーニー。
 西ベンガル州コルカタのシンディー家系(*6)生まれで、上記のように父親は映画プロデューサー。姉ホーニィーが男優リテーシュ・デーシュムクの弟と結婚したことから、デーシュムク家とも親戚関係。
 大学で商学位を取得し、米国のリー・ストラスバーグ演劇&映画研究所にて演技を学ぶ。09年に、父親がプロデュースするヒンディー語映画「Kal Kissne Dekha(明日、なにが起こるかわかる人がいる?)」で映画&主演デビュー。国際インド映画協会他の新人男優賞を獲得するも、映画自体は散々な評価で終わる。続く12年の「F.A.L.T.U(やくたたず)」でスターギルド"明日のスーパースター"賞を獲得し、5本目の出演作となる本作でBIGスター・エンターテイメント社会派演技男優賞を獲得している。16年の「Sarbjit」からはプロデューサーとして活動中。
 本作で顔のアップになると、額の真ん中に傷跡のような線がハッキリついてるのがとても気になったゼヨ。

 本作のインド公開時はちょうどインドの総選挙の年だったそうで、そういった新政権誕生を夢想する雰囲気に乗っかった感はそこかしこから匂ってくる。
 劇中エピソードは、ほぼ実際の過去のインド首相選が元ネタになっているそうで、その辺をリアルに体験してるインド人にはインド政治史概略的な見方も出来るのかも…しれない。ま、それでもインドでの評価が低いのは、物語のバランスと台詞劇の段取り、役者との協調具合がうまく行ってない感じに見えてしまうからかねえ…。

 序盤の日本ロケは、事前情報から想像するよりもがっつり日本の風景が撮影されていて、東京その他の風景がしっかり劇に取り込まれてるのはビックリ(*7)。
 ケーヨーズ・イラーニー演じるアジャイが新幹線に乗りながらインドからの電話に出て「眠いから寝かせてくれ」とか言ってるシーンが、座席じゃなくてドア付近になっていたのは、あれは後付けセット撮影じゃなくて実際に新幹線で撮影してた…とかじゃないよねキット!!

プロモ映像 Youngistaan Anthem (新世代国国歌)

*自身の若さ・政治界への新参者と言う要素をいかんなく発揮して世論を味方につけ、"ヤンギスタン"路線の政治改革を実現していく主人公の図。
 料理した事もなさそうなヒロインが農家の晩ご飯を一緒に作ってみたり、村人と一緒に議論の席を設ける主人公とかの様子が、妙にふてぶてしく見えてしまうのは、演出的意図と言うよりは役者の問題か…w
 そんな中で、ヒンドゥー神像に花輪を捧げたり、同じ人物がシーク(?)の祈祷に参加していたりするパフォーマンスも見逃せないネ!

 

 本作の東京ロケを見に行った時のことは、こちらを参照くださいな。

 

 

受賞歴
2014 BIG Star Entertainment Awards 社会派演技男優賞(ジャッキー)


「若者の国」を一言で斬る!
・日本で6ラーク(=60万ルピー)稼いでいたじゃん、とヒロインに詰め寄られる主人公アビー。どんな役職にいたんだー!!

2018.4.20.

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*1 アフガニスタン、パキスタンなどの"スタン"。もともと「家」の意。
*2 その後、無事和解したそうな。
*3 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*4 ハロウィンに盛り上がる新宿、渋谷、六本木。他に九段下?や東京湾岸、富士山さらに京都の国立国際会館その他。
*5 ヒンディー語の娯楽映画を指す俗語。
*6 現パキスタン南部に位置するシンド地方を起源とし、シンディー語を母語とするコミュニティ。ヒンドゥー、イスラム、シーク教社会それぞれに広がっている。
*7 ミュージカル一曲だけかと思ってたもので…。