ファンタジーな地名辞典

葦原中国

分類:原世界
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 記紀神話における日本列島の呼び名。アシハラノナカツクニと読む。別に豊葦原水穂国などとも。
 主に天界 高天原に対して地上界を指す時に用いられ、意味はそのまま「葦の原に囲まれたクニ」。植物生成の豊なクニ、と言う事か。
 記紀の世界観では、上から天・天界 高天原・地上界 葦原中国と海世界・地下世界がある。
 葦原中国の誕生はまず、天地開闢時の葦の神ウマシアシカビヒコジ(1)によってであろう。葦の神によって世界は葦の原のただ中に出現した。その上に、神代七代(2)の最後に現れたイザナキ・イザナミの国生み(3)によって日本列島が誕生し地上界が形成されていく。
 イザナキ・イザナミに続き、世界の統治は三貴子(4)に任せられる。ここでアマテラスたち天つ神は天界 高天原に、その他の国つ神は地上界 葦原中国にと住み分けがなされる(5)が、高天原を追放されたスサノヲは、国つ神の娘クシナダヒメを娶り葦原中国の出雲に初めて須賀の都を興す(6)
 その後、オホクニヌシ(7)が出雲を始めとした葦原中国全土の開墾・平定を行い支配権を持つようになるが、国譲り(8)によってタケミカヅチやフツヌシによる再度の平定が行われ支配権が天つ神に移る。
 天つ神の代表、天孫ニニギの九州地方への降臨と開墾(9)を経て天皇家が生まれる。伝説上の天皇・神武の東征によって大和地方に中央政権が確立し、人の歴史が始まるのである。
 
 世界は大洋の中にあるとか天をつく山脈にかこまれているなどの伝承は世界中にありますが、日本の場合は葦に世界がかこまれていると見るようです。もっとも、見方を変えれば「ここは稲の育成に適した住みやすい土地なんだぜぃ」と言う自慢にも聞こえる世界観で、その意味では世界を指すと言うより日本列島を指す言葉でしょう。日本神話の中には、様々な所で植物から世界・生命・神が萌え出づる植物信仰のような要素が散見できます。

 参考までに日本神話年表作ってみました。

参考
「古事記」
倉野憲司 校注 岩波文庫
「日本書紀」
坂本太郎 家永三郎 井上光貞 大野晋 校注 岩波文庫
2003.2.17.

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(1)  美しい葦の芽の夫神、の意。一説にヒコジはコヒジ(泥)の転とも。 日本の世界創造伝承には混沌→土台出現→泥→葦(棒状のモノ)からの生命出現、と言う要素がある。
(2)  土台神・収穫神と夫婦神5組の総称。 夫婦神はそれぞれ、泥→杙(突起物)→性器(男女成立)→男女の会話→結婚への誘いを神格化している。なんとなく、この5組の流れは最初の人間形成の説明にも読める気がするけど…?。
(3)  ここで生まれるのは主に近畿以西。
(4)  アマテラス(太陽神にして巫女神)・ツクヨミ(月神)・スサノヲ(天界では暴風神。出雲では英雄神にして農耕神)の3神の事。
(5)  天つ神は高木の神あるいはアマテラスを中心にした皇祖系の神々。ほとんどが稲作に関係した神名を持つ。 対し国つ神は地上の山や川などの土地神や自然神、または地方豪族の祖神。
(6)  現島根県大東町須賀。
(7)  様々な別名を持つが本来はオホナムチまたはオオナモチで「大きな土地主」。スクナヒコナ(小さな土地主)と共に国土開拓を担う。
(8)  開拓者が新たな支配者にその支配権を譲り、自ら宗教的存在になると言う説話はアフリカ他にも類型が見られると言う。参考/エリン
(9)  天孫降臨の舞台となる高千穂は、鹿児島県霧島山の高千穂峰もしくは宮崎県臼杵群高千穂とされる。